中華料理の教科書

中国の酢香醋・陳醋・白酢・烏醋の違い

黒酢の瓶と生姜の千切り入りの酢の小皿、白っぽいたれの小皿、水餃子を盛った大皿の写真風の画像
公開

この記事はAmazonアソシエイトのリンクを含みます。

中国の食卓では、酢は醤油と並ぶ主役級の調味料だ。山西の人は「銃は差し出しても酢は差し出さない」と言われるほどの酢好きで、刀削麺には黒い酢をたっぷりかける。江南では、上海蟹や小籠包に香りの高い黒酢を添える。四川の酸辣粉は酢の酸味が命で、台湾の羹(とろみスープ)には烏醋が欠かせない。

ひとくちに「黒酢」と言っても、山西の老陳醋と鎮江の香醋では、原料も香りもまったく違う。前者は高粱(コーリャン)を主原料に、燻した醅(もろみ)の香ばしさと強い酸味が特徴だ。後者はもち米が原料で、香りが高く、ほのかに甘い。さらに四川の保寧醋、福建の永春老醋を加えた四つが、中国の「四大名醋」と呼ばれる。

一方で、日本の家庭にあるのは米酢・穀物酢・黒酢くらいだ。糖醋(甘酢)の料理を米酢で作ると、どこか物足りない。逆に、餃子に日本の黒酢をつけても、山西や鎮江の酢とは香りが違う。どの料理にどの酢を使うかを知っておくと、ガチ中華の味がぐっと近づく。

ここから先では、四大名醋をはじめとする中国の酢の種類と特徴、料理ごとの使い分け、日本の酢での代用のしかたを解説する。

中国の酢は「原料」と「熟成」で分かれる

中国の醸造酢は、穀物を麹で糖化・アルコール発酵させ、さらに酢酸菌で酢酸発酵させて作る。ここまでは日本の酢と同じだが、中国の伝統的な酢の多くは、もろみを固体の状態で発酵させる「固態発酵」で、穀物のぬか(麸皮)やもみ殻を混ぜて仕込む。そのため、日本の米酢よりも色が濃く、香りが複雑になる。

もう一つの軸が熟成だ。「老陳醋」「老醋」の「老」「陳」は、長く寝かせたことを示す。

大きく分けると、次の四系統で考えるとわかりやすい。

  • 高粱が主原料の、酸味と香ばしさの強い北方の黒酢(山西老陳醋など)
  • もち米が主原料の、香りが高くまろやかな江南の黒酢(鎮江香醋など)
  • ぬか(麸皮)を主体に、薬草の麹を使う四川の麸醋(保寧醋)
  • 色の淡い米酢・白酢、台湾の烏醋など、日常使いの酢

山西老陳醋:酸味と燻香の北方の酢

老陳醋は、山西省太原の清徐県を中心に造られる酢だ。高粱を主原料に、大曲(ダーチュー)と呼ばれるれんが状の麹で発酵させる。いちばんの特徴は、発酵を終えた醅(もろみ)の一部を火で燻す「熏醅(シュンペイ)」の工程で、これがコーヒーのような香ばしさを生む。

さらに、できた酢を夏は日にさらし、冬は表面に張った氷をすくい取る「夏晒冬撈」を繰り返して水分を飛ばし、何倍にも濃縮して熟成させる。そのため酸味が強く、香りが重厚で、とろみも感じられる。

山西では、麺料理にかけるのが定番だ。刀削麺・猫耳朶・過油肉など、山西料理には酢が欠かせない。過油肉では、鍋肌に酢を回し入れて酸味の角を飛ばす「烹醋」の技法も使われる。

鎮江香醋:もち米の香りとほのかな甘み

香醋の代表、鎮江香醋は、江蘇省鎮江で造られる。もち米を麹で糖化して酒にし、麸皮ともみ殻を混ぜて固体にしたもろみを、毎日上下を返しながら酢酸発酵させる。この「固態分層発酵」と呼ばれる方法で20日あまり発酵させ、その後、甕で半年から数年熟成させる。国家級の無形文化遺産にも登録されている製法だ。

味は「酸っぱいが渋くなく、香り高くほのかに甘い」と表現される。老陳醋よりも酸味がやわらかく、香りが前に出るので、つけ酢やたれに向く。

  • 上海蟹や小籠包のつけ酢:香醋に生姜の細切りを入れる。
  • 鎮江肴肉:豚肉の煮こごりに、香醋と生姜を添える。
  • 西湖醋魚・糖醋排骨:江南の甘酢料理の酸味は、香醋で出すのが本場流だ。

日本で「中国黒酢」「陳醋」として売られている瓶は、鎮江系の香醋であることが多い。ラベルの原料欄に「糯米」とあれば鎮江系、「高粱」とあれば山西系と見分けられる。

保寧醋と永春老醋

  • 保寧醋(バオニンツー):四川省閬中で造られる、麸皮(ぬか)を主体にした麸醋だ。麹を作るときに、砂仁・肉桂・烏梅・当帰などの生薬を加えるのが特徴で、四大名醋の中で唯一の「薬醋」とされる。色は赤褐色で、酸味がやわらかく、後味に甘みがある。四川の酸辣粉や涼麺、冷菜のたれには、この保寧醋を使うのが本場の味だ。
  • 永春老醋(ヨンチュンラオツー):福建省永春で造られる。もち米と紅麹を甕で4〜6か月発酵させて紅い酒にし、そこへ酢の種(酢母)と炒ったごまを加えて酢にする。熟成は最低でも3年、長いものは10年を超える。色は濃い褐色で、香りが濃く、まろやかだ。

白酢・米酢・烏醋:日常使いの酢

  • 白酢(白醋):色のない、穀物や米から造る酢。素材の色を生かしたい料理に使う。酢炒めじゃがいもの細切り(酸辣土豆絲)を白く仕上げたいとき、甘酢漬けや糖蒜を漬けるとき、色の淡い糖醋あんを作るときなどに向く。
  • 米醋(ミーツー):米から造る、色の淡い酢。香醋・陳醋より酸味がまろやかで、日本の米酢に近い。
  • 烏醋(ウーツー):台湾の黒酢。白酢(米の醸造酢)をベースに、玉ねぎ・セロリ・にんにく・にんじんなどの野菜や果物、香辛料、塩、砂糖を加えて造る。大陸の香醋・陳醋とは製法も風味も別物で、どこかウスターソースを思わせる甘みとうま味がある。花枝羹(イカのとろみスープ)や肉羹、炒麺、水餃子のたれなど、台湾の屋台料理の仕上げにひと回しする。烏醋は塩分が多い点に注意が必要だ。台湾の報道では、100gあたりのナトリウムが白酢の約20倍とされている。

料理ごとの酢の使い分け

  • 餃子・小籠包のつけ酢:北方の水餃子には陳醋系、江南の小籠包・生煎包には香醋が定番。にんにくのすりおろしや辣椒油を加えてもよい。
  • 糖醋(甘酢):糖醋里脊・甘酢スペアリブなど、色の濃い甘酢あんには香醋。色を明るく仕上げたいなら白酢か米酢を使う。
  • 醋溜(酢炒め):醋溜白菜は陳醋で香ばしく、酢炒めじゃがいもの細切りは白酢で白く仕上げることが多い。
  • 酸辣:サンラータンやサンラー粉は、黒酢の香りと白こしょう(または唐辛子)の辛さを合わせる。四川の酸辣粉なら保寧醋、北方のサンラータンなら陳醋系が多い。
  • 冷菜:拍黄瓜(たたききゅうり)は、香醋と生抽、にんにくで和えるのが基本だ。

酢を使うタイミングにもコツがある。炒め始めに鍋肌から入れた酢は、熱で酸味が飛んで香りが残る。仕上げに入れた酢は、酸味がそのまま残る。香りだけほしいなら早めに、酸味をしっかり効かせたいなら火を止める直前に入れる。

中国の酢の選び方:ラベルで見るところ

中国の酢を買うときは、瓶の裏のラベルを見ると中身がかなりわかる。

  • 原料:「高粱」「麸皮」とあれば山西系、「糯米」とあれば鎮江系の香醋だ。どちらも書かれていない、あるいは「冰醋酸(氷酢酸)」とあるものは、醸造酢ではない。
  • 醸造か調配か:中国の酢には、穀物を発酵・熟成させた「酿造食醋(醸造酢)」と、酢酸を水で薄めて味を調えた「配制食醋(調配酢)」がある。香りの違いははっきりしているので、料理用には醸造酢を選びたい。
  • 総酸:酸度の表示で、数値が高いほど酸っぱい。酸度の高い酢なら少ない量で済む。中国の伝統的な醸造酢は、仕込みの工程で塩を使うことがあり、少量の塩分を含むものも多い。酢を多く使う料理では、塩を足す前に味見をする。
  • 熟成年数:「三年陳釀」「五年陳釀」などの表示は熟成期間の目安だ。年数が長いほど香りがまろやかになるが、炒め物やたれに使うなら、熟成の短い手ごろな品で十分だ。

日本の酢で代用するには

本場の酢がない場合の代用の目安だ。

  • 鎮江香醋 → 日本の米黒酢で代用できる。香醋より酸味がやわらかく、甘みが少ないので、大さじ1につき砂糖ひとつまみを加えると近づく。
  • 山西老陳醋 → 米黒酢に、ウスターソースを数滴加えると、香ばしさとコクがいくらか出る。酸味が足りなければ、穀物酢を1〜2割混ぜる。
  • 保寧醋 → 香醋か米黒酢で代用する。薬草の香りは再現できないが、酸辣粉の方向性は保てる。
  • 白酢 → 日本の穀物酢でほぼそのまま代用できる。中国の白酢のほうが酸度が高い商品もあるので、味を見て量を加減する。
  • 烏醋 → 米黒酢大さじ2に、ウスターソース小さじ1を合わせると、甘みとうま味の方向が近づく。

よくある失敗

  • 酢炒めが酸っぱすぎる:仕上げに酢を全量入れている。半分を炒め始めに鍋肌から入れて香りに変え、残りを仕上げに入れる。
  • 甘酢あんの色が黒すぎる:糖醋里脊のような明るい色のあんを、山西の陳醋で作っている。白酢か米酢で作るか、香醋を半量にして白酢と合わせる。
  • つけ酢の香りが弱い:日本の穀物酢を使っている。餃子・小籠包のつけ酢は、黒酢系にするだけで一気に本場に近づく。
  • 烏醋を入れたら塩辛くなった:烏醋は塩分を含むので、羹に使うときは、仕上げに味を見てから塩を足す。

この記事で紹介した調味料を使うレシピ

出典

本文は上記の情報源を参考に、独自に再構成・翻訳したものです。