中華料理の教科書

炒・爆・熘の違い中華の強火技法を徹底解説

コンロにかけた中華鍋で炒める豚肉とピーマンの細切りと、手前のたれの小皿の写真風の画像
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中華料理の店でメニューを眺めていると、「炒」「爆」「熘(溜)」という漢字がやたらと目に入る。青椒肉絲は「炒」、爆炒腰花は「爆」、溜肉段は「溜」。どれも中華鍋と強い火を使う料理だが、中国の料理書では、この三つははっきり別の技法として扱われている。

ざっくり言えば、炒(チャオ)は小さく切った材料を少ない油で手早く火を通す、いちばん基本の技法だ。爆(バオ)はそれをさらに短く、強く押し進めたもので、熱湯や高温の油でいったん火を入れた材料を、合わせ調味料と一緒に一気に仕上げる。熘(リウ)は、揚げる・油通しする・蒸すなどで先に火を通した材料に、とろみのついたたれ(芡汁)をからめたり、上からかけたりして仕上げる技法である。

日本の家庭では、これらはまとめて「炒め物」と呼ばれがちだ。けれど、技法の違いがわかると、レシピの手順に書かれた「油通し」「合わせ調味料」「水溶き片栗粉は最後に」といった指示の意味が見えてくる。なぜ回鍋肉は先に豚肉をゆでるのか、なぜ糖醋里脊は二度揚げするのか、なぜ爆炒腰花の腰花には格子の切り目を入れるのか。その答えは、だいたい技法の名前のなかにある。

ここから先では、炒・爆・熘それぞれの定義と下位分類、代表的な料理、そして家庭のコンロで再現するための具体的なコツを解説する。

炒(チャオ):中華のいちばん基本の技法

中国の調理技術の解説では、炒は「油(または鍋の金属)を熱の媒体にして、小さく切った材料を中火〜強火で短時間加熱し、調味して仕上げる方法」と説明される。材料は片(薄切り)・絲(細切り)・丁(さいの目)・条(拍子木)など、短時間で火が通る大きさにそろえるのが前提だ。味が中まで染みにくいので、多くの料理では最後に軽くとろみをつけて、たれを表面にまとわせる。

炒はさらに、下ごしらえの違いによって細かく分けられる。

  • 生炒(シェンチャオ):下味の衣(上漿)も、仕上げのとろみもつけず、生の材料をそのまま炒める。生煸(シェンビエン)とも呼ぶ。にんにくと空心菜の炒め物や木須肉がこの例に挙げられる。広東では、ブロッコリーのにんにく炒めのように、生の材料を鍋に入れて直接火を通すものを生炒と呼ぶ。
  • 熟炒(ショウチャオ):主材料を先にゆでる・蒸す・油通しするなどして半ば火を通してから炒める。回鍋肉はその典型で、豚肉をゆでて切ってから炒めるので、形がくずれず、短時間で味が決まる。
  • 清炒(チンチャオ):一種類の材料だけを炒めるもの。色が鮮やかで、汁気は少なく、とろみはごく薄い。清炒荷蘭豆(さやえんどう炒め)などがこれにあたる。
  • 滑炒(ホアチャオ):細く切った肉や魚に、卵白とでんぷんの衣(上漿)をつけ、ぬるめの油で滑らせるように火を通してから(滑油)、合わせ調味料で仕上げる。青椒肉絲のように、肉を下味と片栗粉でコーティングして油通ししてから炒める作り方は、この滑炒の考え方そのものだ。
  • 干炒(ガンチャオ)・干煸(ガンビエン):材料の水分を炒め出し、乾いた香ばしさと歯ごたえを出す。四川の干煸豆角(いんげんの干煸)や干煸牛肉絲が代表例。広東では炒飯のようにパラパラに仕上げるものも干炒と呼ぶ。
  • 軟炒(ルアンチャオ):材料をすり身や卵液のような流動状にして、弱めの火でやわらかく炒め固める。芙蓉鶏片や広東の大良炒鮮奶(牛乳と卵白の炒め物)が例に挙がる。
  • 抓炒(ジュアチャオ):衣をつけて揚げた材料を、合わせ調味料と一緒にさっと炒める技法。抓炒里脊などがある。

用語の使い方は地域で揺れる点にも注意したい。広東の料理用語では、卵や牛乳を弱火でなめらかに炒めるものを「滑炒」と呼ぶことがあり、北方でいう滑炒(上漿して油通しする方法)とは指すものが違う。中国語のレシピを読むときは、言葉だけでなく、実際の手順で判断するのが確実だ。

爆(バオ):強火で数十秒の勝負

爆は、炒のなかでもとくに速さを重んじる技法だ。料理書では「主材料を沸騰した湯や高温の油で手早く加熱し、副材料と合わせ調味料を加えて一気に仕上げる」と説明され、「旺火速成(強火で一気に仕上げる)」が合言葉になっている。爆炒の油温は「八成熱」前後、つまり油からうっすら煙が上がり始める高温が目安とされる。

爆に向くのは、豚マメ(腰子)、砂肝、胃袋、いか、巻貝など、歯切れのよい食感を持つ材料だ。これらには花刀(ホアダオ)と呼ばれる格子状や麦の穂状の切り目を入れることが多い。切り目によって火が中まで一瞬で通り、表面積が増えてたれもよくからむ。爆炒腰花(豚マメの強火炒め)で腰花に細かい格子を入れるのはこのためだ。工程は「ゆがく(または揚げる)→炒める→たれをからめる」の連続作業で、途中で手を止めると、一気に硬くなる。

爆は、使う調味料や副材料によってさらに名前が変わる。

  • 油爆(ヨウバオ):材料を油通ししてから、高温の油で手早く仕上げる。素材の色を生かすため、色の濃い調味料は避けるのが原則とされ、油爆海螺片(巻貝の油爆)などがある。なお、上海の油爆蝦(川えびの油爆)は、殻付きの小えびを高温の油で二度揚げしてから、生抽・砂糖・酒のたれを強火で煮からめる料理で、名前は同じ「油爆」でも甘辛い仕上がりになる。
  • 醤爆(ジャンバオ):先に醤を油で炒めて水分を飛ばし、香りと濃度を出してから、油通しした具を強火でからめる。北京の醤爆鶏丁は、黄醤を油で炒めて、水分が飛んでとろりと濃くなってから鶏肉を戻す。京醤肉絲も醤爆の仲間で、こちらは甜麺醤を使う。
  • 葱爆(ツォンバオ):長ねぎを副材料兼調味料として大量に使う。葱爆羊肉(羊肉の葱炒め)が代表だ。
  • 芫爆(ユエンバオ):香菜(パクチー)を主な副材料にする。芫爆肚絲(胃袋の細切りの香菜炒め)などがある。
  • 湯爆(タンバオ)・水爆:油ではなく、沸騰した湯やスープで瞬間的に火を通す。北京の爆肚(胃袋の湯通し)も、名前に「爆」が付くのはこの考え方による。

四川では、回鍋肉・宮保鶏丁・魚香肉絲・火爆腰花などの「小煎小炒」と呼ばれる料理群が、まさに「急火短炒(強火で短く炒める)」で作られる。一皿分ずつ、鍋をほとんど止めずに仕上げるのが四川の炒め物の流儀だ。

熘(リウ):先に火を通して、たれをからめる

熘は「溜」とも書く。料理書の定義では「何らかの方法で先に加熱した材料に、その場で作った芡汁(とろみのあるたれ)をからめる、またはかけて仕上げる方法」とされる。炒や爆と同じく強火の技法だが、たれの量が多く、材料がつやのあるあんに包まれるのが特徴だ。材料は角切りや厚めの切り身など、ある程度の大きさがあるものが多い。

熘は、最初の加熱方法で三つに大別される。

  • 焦熘(ジャオリウ):炸熘・脆熘とも呼ぶ。衣をつけて油で揚げ、外をカリッとさせてから、たれをからめるか上からかける。下揚げの油温は「七成熱」前後とされ、2〜3回揚げ直して衣を固めるのが基本だ。糖醋鯉魚(鯉の甘酢あんかけ)や松鼠桂魚(リスの形に切った桂魚の甘酢あんかけ)、東北の溜肉段(豚肉の角切りのあんからめ)、糖醋里脊(豚ヒレの甘酢あん)などが代表例だ。
  • 滑熘(ホアリウ):上漿した材料をぬるめの油で滑らせてから、多めのたれでまとめる。滑炒から発展したもので、たれが滑炒より多い。山西の過油肉や、黄酒で香りをつけた魚の切り身の熘がこれにあたる。
  • 軟熘(ルアンリウ):材料を蒸す・ゆでるなどしてやわらかく火を通してから、とろみのあるたれをかける。杭州の西湖醋魚(草魚をゆでて甘酢あんをかける料理)が代表的だ。

さらに味で、醋熘(酸味を立たせる)・糖熘(甘みを立たせる)・糟熘(酒粕の香り)などと呼び分ける。醋溜白菜は、白菜を強火で炒めて酢を効かせたたれでまとめる、醋熘の家庭版といえる。

同じ焦熘でも、衣の厚さで食感はまったく変わる。でんぷんを多く使った厚い衣(掛糊)なら、たれをからめてもカリッとした歯ざわりが残る。でんぷんの少ない薄い衣(上漿)なら、表面は香ばしく、中はしっとりやわらかく仕上がる。レシピの衣の配合を見れば、その料理がどちらの食感を目指しているかがわかる。

たれ(芡汁)のかけ方で仕上がりが変わる

熘の仕上がりを左右するのは、芡汁の作り方とタイミングだ。芡汁は、でんぷん・調味料・スープを合わせて作る。料理書では、たれの加え方を次のように分けている。

  • 浇汁(ジャオジー):皿に盛った揚げ物の上から、鍋で作ったあんをかける。たれの照りを出すため、仕上げに油(明油)を多めに加える。
  • 卧汁(ウォージー):鍋で先にあんを作り、そこに揚げた材料を入れてからめる。
  • 走馬汁(ゾウマージー):鍋をあおりながら、合わせ調味料を回し入れて一気にからめる。水・油・でんぷんの比率がずれると、照りが出ない。

焦熘でとくに大事なのは、たれを加えたら一気にからめて、すぐ皿に移すことだ。もたもたしていると、たれが衣に染み込んで、せっかくのカリッとした食感がすぐに戻ってしまう。たれが材料に比べて少なすぎると全体がべたつき、多すぎると水っぽくなる。

家庭で再現するコツ

  • 材料は一度に入れすぎない。家庭用コンロで中華鍋に肉を山盛り入れると、鍋の温度が一気に下がり、「炒める」が「煮る」に変わってしまう。肉なら一度に200g前後を目安にし、多いときは2回に分ける。
  • 中華鍋は、煙がうっすら上がるまで空焼きしてから油を入れる。鍋と油を一緒に温めるより、くっつきにくく、焦げにくい。
  • 合わせ調味料(碗汁)は、炒め始める前に小さな器で作っておく。生抽・砂糖・酢・水・片栗粉を混ぜておけば、最後に一度回し入れるだけで済み、爆や熘のスピードについていける。片栗粉は沈むので、入れる直前によく混ぜる。
  • 滑炒・滑熘の油通しは、牛肉の薄切りやさいの目切りの肉なら「四〜五成熱」(およそ120〜150℃)、魚の切り身なら「二〜三成熱」(およそ60〜90℃)と、かなり低めでよい。家庭では、フライパンに油を200mlほど入れ、肉を入れたら箸でほぐしてすぐに引き上げる。
  • 焦熘の衣は二度揚げで固める。一度目は中温で中まで火を通し、いったん引き上げて少し休ませ、二度目は高温で表面をカリッとさせる。油温度計があると、温度のブレが減って失敗が少なくなる。
  • 醤爆の醤は、焦がさないよう中火で、水分が飛んで照りが出るまで炒める。黄醤は塩分が強いので、醤爆では塩を足さない。
  • 酒は、紹興酒や料理用の黄酒を鍋肌から回し入れると、香りが一気に立つ。紹興酒は黄酒の一種なので、どちらを使ってもよい。

よくある失敗

  • 肉がパサつく:滑炒の油温が高すぎるか、油通しの時間が長すぎる。肉の色が白く変わったら、すぐ引き上げてよい。
  • 炒め物が水っぽい:一度に入れる量が多すぎるか、野菜の水気を切っていない。洗った野菜は、ざるでよく水を切ってから使う。
  • あんがダマになる:片栗粉が沈んだまま入れたか、鍋の温度が低い。合わせ調味料は直前によく混ぜ、煮立ったところに加える。
  • 爆の材料が硬い:花刀の切り目が浅いか、加熱が長すぎる。腰子やいかは、色が変わって切り目が開いた瞬間が引き上げ時だ。

鍋気(鑊気)について

広東の料理人は、強火の炒め物のよし悪しを「鑊気(ウォクヘイ/鍋気)」で語る。熱い鉄の鍋で手早く炒めたときにだけ出る、香ばしく焦げた香りのことだ。鍋を十分に熱する、油を入れすぎない、材料を素早く動かす、といった炒の基本がそろってはじめて生まれる香りとされる。家庭のコンロでどこまで近づけるかは、「火候(火加減)」の記事であらためて解説する。

この記事で紹介した技法を使うレシピ

  • 青椒肉絲:下味と片栗粉をまとわせた豚肉の細切りを先に炒めて取り出し、ピーマンと手早く合わせる滑炒系の一皿。
  • 回鍋肉:豚バラの塊をゆでてから薄切りにし、豆瓣醤と炒め合わせる熟炒の典型的な一皿。
  • 干煸ささげ(干煸豆角):ささげを揚げ焼きにして水分を飛ばし、香ばしさを引き出す干煸(干炒)の技法を使う。
  • 爆炒腰花(豚マメの強火炒め):麦穂花刀を入れた豚マメを高温の油に数秒通し、合わせだれで約15秒で仕上げる爆の代表。
  • 醤爆鶏丁:黄醤と甜麺醤を弱火で炒めて水分を飛ばし、油通しした鶏肉を強火でからめる醤爆の一皿。
  • 糖醋里脊(甘酢豚ヒレ):二度揚げした豚ヒレに、とろみをつけた甘酢だれをからめる、焦熘の考え方でできた一皿。
  • 西湖醋魚:ゆでた白身魚に香醋を効かせた甘酢あんをかける、軟熘の代表的な杭州の名物。

出典

本文は上記の情報源を参考に、独自に再構成・翻訳したものです。