中華料理の教科書

中華の醤豆瓣醤・甜麺醤・黄醤・芝麻醤・海鮮醤の違い

赤、黒、ベージュ、赤褐色など5種類の醤を器に入れ、それぞれにスプーンを添えた写真風の画像
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中華料理の味を決める調味料の多くは、「醤(ジャン)」と呼ばれるペースト状の調味料だ。麻婆豆腐の郫県豆瓣醤、回鍋肉の甜麺醤、北京の炸醤麺の黄醤、涮羊肉のたれの芝麻醤、北京ダックに塗る甜麺醤、広東の焼味(ロースト)に使う海鮮醤や叉焼醤。料理名に「醤」の字が入っていなくても、味の芯にはたいてい何かの醤がいる。

やっかいなのは、名前が似ているのに中身がまったく違うことだ。豆瓣醤はそら豆と唐辛子、甜麺醤は小麦粉、黄醤は大豆が原料で、どれも発酵させて作るが、味の方向はまるで違う。日本で「テンメンジャン」として売られている瓶には、中国の甜麺醤とは配合の違う、甘い合わせ味噌に近いものもある。さらに、名前に「海鮮」と付く海鮮醤には、たいてい魚介が入っていない。

醤を取り違えると、料理は一気に別物になる。逆に、醤の正体がわかれば、手持ちの日本の味噌や調味料で、かなり近い味を作ることもできる。

ここから先では、北方・四川・広東・潮汕の主な醤の原料と味、使い方、日本の調味料での代用のしかたを解説する。

醤とは何か:発酵ペーストと合わせだれ

中国語の「醤」は、もともと穀物や豆を麹で発酵させたペースト(日本の味噌・醤に近いもの)を指す。現代の中国では、それに加えて、ごまをすりつぶしたものや、干し貝柱やえびを油で煮たものなど、ペースト状の調味料全般を「醤」と呼ぶ。

大きく分けると、次の二つに整理できる。

  • 発酵系の醤:郫県豆瓣醤・甜麺醤・黄醤・大醤・豆豉など。麹で発酵させて作り、塩気とうま味の土台になる。
  • 合わせ系の醤:芝麻醤・海鮮醤・柱候醤・沙茶醤・XO醤・叉焼醤・蒜蓉辣醤など。発酵系の醤や砂糖・香辛料・乾物を合わせて作り、それ一つで味がほぼ完成する。

郫県豆瓣醤:四川料理の魂

郫県豆瓣醤は、成都の郫都区(旧郫県)で造られる、そら豆と唐辛子の発酵ペーストだ。「川菜之魂(四川料理の魂)」と呼ばれる。

中国の無形文化遺産の資料によれば、明末清初の頃、陳氏の一族がかびたそら豆を唐辛子と合わせて食べたところ、思いのほかおいしかったのが始まりと伝わる。清の嘉慶年間の1803年には、陳逸仙が醤園「順天号」を開いたという。

製法は、麹をつけたそら豆(豆瓣)と、塩漬けにして刻んだ生の赤唐辛子を合わせ、甕に入れて屋外で長期間発酵させる。その間、「晴れの日は日にさらし、雨の日はふたをし、昼は混ぜ返し、夜は夜露にあてる」(晴天曬、雨天蓋、白天翻、夜晩露)という手入れを続ける。発酵が進むにつれて色は赤から赤褐色に変わり、香りが深くなる。

  • 使い方:必ず油で炒めてから使う。弱めの中火で、油が赤く色づき、香りが立つまで炒める(炒出紅油)。生のまま加えると、豆の生臭さと塩気だけが残る。
  • 代表料理:麻婆豆腐・回鍋肉・豆瓣魚・水煮牛肉・家常豆腐など。
  • 粒の粗いものは、包丁で刻むか、すり鉢で軽くつぶしてから使うと、油になじみやすい。

日本の一般的な豆板醤で代用する場合、郫県豆瓣醤よりも塩分が強く、発酵の香りが弱いものが多い。量を2〜3割減らし、八丁味噌や赤味噌を小さじ1/2ほど足すとコクが近づく。

甜麺醤と黄醤:北京の二つの醤

  • 甜麺醤(ティエンミエンジャン):小麦粉を蒸して麹にし、塩と一緒に発酵させた醤。色は赤褐色で、甘みがあり、なめらかだ。北京ダック(北京烤鸭)では、薄餅に塗る甘いたれにする。京醤肉絲では、油で炒めて水分を飛ばし、細切り肉にからめる。四川の回鍋肉でも、郫県豆瓣醤と合わせて甘みとコクを出すのに使う。
  • 黄醤(ホアンジャン):大豆を主原料にした、塩気の強い発酵の醤。甜麺醤とは別物だ。北京の炸醤麺(老北京ジャージャー麺)では、黄醤と甜麺醤を合わせて、豚肉と一緒に弱火でじっくり炒め煮にする。醤爆鶏丁も黄醤を使う。水分の少ない「干黄醤」は、水や酒で溶いてから炒めると焦げにくい。

東北には大豆主体の自家製の醤「大醤(ダージャン)」がある。生野菜につけて食べる「蘸醤菜」や、煮込みの味つけに使う。東北のレシピで単に「豆瓣醤」と書かれているときは、この大醤系を指すことが多いので注意したい。

韓国式ジャージャー麺(チャジャンミョン)に使う春醤(チュンジャン)も、この甜麺醤の流れをくむ。台湾の報道によれば、仁川の中華料理店の華僑の料理人が、甜麺醤にカラメルを加えて韓国人好みに甘く黒くしたものだという。中国の甜麺醤よりも色が黒く、甘い。

代用:甜麺醤は、赤味噌大さじ2に砂糖大さじ1、ごま油小さじ1/2を混ぜると近くなる。黄醤は、八丁味噌か豆味噌で代用できる。

芝麻醤:ごまのペースト

芝麻醤は、炒ったごまをすりつぶしたペーストだ。日本の練りごまに比べて、ごまを深く炒っているものが多く、香ばしさが強い。

  • 使い方:そのままでは固いので、水か湯を少しずつ加えて、一方向に混ぜながらのばす。一度に水を入れると分離するので、小さじ1ずつ加える。
  • 代表料理:涮羊肉のつけだれ(芝麻醤に韭菜花や腐乳を合わせる)、武漢の熱干麺、北京の爆肚、四川の担々麺や棒棒鶏など。
  • 代用:日本の練りごま(白)でほぼそのまま代用できる。香ばしさが足りなければ、ごま油を少量足す。

広東の醤:海鮮醤・柱候醤・叉焼醤・XO醤

  • 海鮮醤(ホイシンソース):大豆・砂糖・にんにく・香辛料などで作る、甘くとろみのある醤。名前に反して、一般的な商品には魚介は入っていない。焼味の下味や、つけだれ、炒め物に使う。
  • 柱候醤(チューハウジャン):大豆を主原料に、にんにく・ごま・砂糖などを加えた、佛山発祥の醤。豆の香りが強く、牛バラの煮込み(蘿蔔牛腩)や啫啫煲など、広東の煮込みや煲に欠かせない。
  • 叉焼醤:叉焼(チャーシュー)の漬けだれと塗りだれを一つにした合わせ醤。砂糖・醤油・香辛料などを合わせた、甘く赤みのあるたれだ。豚肩ロースに塗って一晩漬け、焼くだけで叉焼の味になる。
  • XO醤:1980年代の香港で広まった、高級な合わせ醤。ミシュランガイドが香港の三つ星店の料理長に取材した記事でも、80年代に「X.O.醤」が市場で流行り始めたと語られている。干し貝柱・干しえび・中国ハムなどを粗く刻み、唐辛子などと一緒に油でじっくり煮る。そのままつまみやつけだれにするほか、炒飯や炒め麺の仕上げに加える。加熱しすぎると乾物の香りが飛ぶので、最後に入れて温める程度にする。

潮汕・閩南の沙茶醤

沙茶醤(サーチャージャン)は、東南アジアのサテ(沙爹)の調味料が、19世紀の初めごろ華僑や商人によって潮汕・福建・台湾に持ち込まれ、土地の味に変わったものだとされる。決まった配合はなく、ピーナッツ・白ごま・唐辛子・砂糖・干しえび・干し魚・にんにく・エシャロット・陳皮などを数十種すりつぶし、油で煮て作る。

香ばしく、甘じょっぱく、辛さは控えめだ。潮汕では牛肉火鍋のつけだれに欠かせず、厦門では沙茶面のスープのベースになる。台湾では、牛肉と空心菜の沙茶炒めの定番の調味料だ。

辛い醤:剁椒と蒜蓉辣醤

  • 剁椒(トゥオジャオ):生の赤唐辛子を細かく刻み、塩で漬けて発酵させた湖南の醤。辛さに加えて、塩気と発酵のうま味がある。剁椒魚頭では、魚の頭に剁椒をたっぷりのせて蒸す。
  • 蒜蓉辣醤(にんにくチリソース):唐辛子とにんにくを合わせた甘辛い醤。蒸し物や揚げ物のつけだれ、炒め物の仕上げに使う。

日本の調味料での代用のまとめ

本場の醤が手に入らないときの、置き換えの目安をまとめておく。いずれも風味は別物になるが、料理の方向性は保てる。

  • 郫県豆瓣醤 → 日本の豆板醤を2〜3割減らし、赤味噌を少量足す。油でじっくり炒めるのは同じだ。
  • 甜麺醤 → 赤味噌大さじ2、砂糖大さじ1、ごま油小さじ1/2。
  • 黄醤 → 八丁味噌か豆味噌。塩気が強いので、塩は加えない。
  • 芝麻醤 → 白の練りごま。なければ、すりごまをごま油で練ってもよい。
  • 海鮮醤 → 赤味噌大さじ1、砂糖大さじ1、醤油小さじ1、おろしにんにく少量(小さじ1/4)、五香粉ひとふり。
  • 柱候醤 → 海鮮醤か甜麺醤に、豆味噌を同量合わせる。豆の香りが近づく。
  • 沙茶醤 → ピーナッツバター(無糖)大さじ1、干しえびのみじん切り小さじ1、醤油小さじ1、一味唐辛子ひとふり。香りの複雑さは出ないが、香ばしさとうま味の方向は似る。
  • 叉焼醤 → 海鮮醤大さじ2、はちみつ大さじ1、醤油大さじ1、五香粉小さじ1/4。
  • 剁椒 → 生の赤唐辛子を刻み、重さの1割の塩をまぶして、瓶で数日冷蔵する。

醤の扱いと保存のコツ

  • 発酵系の醤は、ほぼすべて「油で炒めてから使う」のが基本だ。炒めると水分が飛んで香りが立ち、生臭さが消える。焦げやすいので、中火以下で炒める。
  • 醤を二種類以上合わせる料理(炸醤麺の黄醤+甜麺醤、回鍋肉の郫県豆瓣醤+甜麺醤など)では、塩気の強い醤を先に、甘い醤を後に入れると焦げにくい。
  • 醤はどれも塩分が多いので、醤を使う料理では、塩を足すのは味見をしてからにする。
  • 開封後は清潔なスプーンで取り、冷蔵庫で保存する。表面に油を薄く張っておくと、乾燥とカビを防げる。

この記事で紹介した調味料を使うレシピ

  • 麻婆豆腐:炒めたひき肉に郫県豆瓣醤と豆豉を加え、香りが立つまで炒めてから豆腐を煮る。
  • 北京ダック(家庭版):甜麺醤を砂糖・ごま油と軽く煮詰めたたれを、鴨と一緒に薄餅で巻いて食べる。
  • 老北京ジャージャー麺:黄醤と甜麺醤を黄酒で溶きのばし、豚バラ肉とじっくり煮詰めて炸醤を作る。
  • 熱干麺:のばした芝麻醤に生抽・老抽を合わせたたれを、ゆでた麺にからめる武漢の朝食。
  • 叉焼(チャーシュー):叉焼醤とはちみつ、生抽・老抽のたれに豚肩ロースを漬け込み、塗り重ねて焼く。
  • 沙茶麺(サーチャーメン):スープに沙茶醤とピーナッツバター、練乳を溶かして作る、厦門の名物麺。
  • 剁椒魚頭:剁椒と豆豉を炒め合わせて魚の頭にのせ、蒸し上げる湖南の看板料理。

出典

本文は上記の情報源を参考に、独自に再構成・翻訳したものです。