中華料理の教科書

焼・燜・燉・煨の違い中華の煮込み技法を徹底解説

コンロにかけた土鍋で、八角や桂皮とともに煮込まれたつややかな角切り豚バラ肉の写真風の画像
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紅焼肉、黄燜鶏、東北乱燉、瓦罐煨湯。中国の煮込み料理の名前には、「焼」「燜(焖)」「燉(炖)」「煨」という字がよく出てくる。日本語にすればどれも「煮込み」だが、中国の料理書では、火の強さ、汁の量、ふたをするかどうか、どれくらいの時間をかけるかによって、はっきり呼び分けられている。

おおまかに言えば、焼(シャオ)は下ごしらえした材料をスープと調味料で煮立て、最後に強火で汁を煮詰めて味をからめる技法だ。燜(メン)は焼から派生したもので、ふたをして弱めの火で蒸らすように煮る。燉(ドゥン)はたっぷりの汁で長時間煮込む方法で、器ごと蒸気で加熱する「隔水燉」もある。そして煨(ウェイ)は、沸騰させない程度のごく弱い火で、さらに長い時間をかける技法である。

ややこしいのは、「焼」が日本語の「焼く」とまったく違う意味だという点だ。紅焼肉は焼いた豚肉ではなく、醤油と砂糖で煮た豚バラ肉である。この記事を読めば、メニューの「紅焼」「干焼」「黄燜」「清燉」が、それぞれどんな手順の料理なのかが見えてくるはずだ。

ここから先では、焼・燜・燉・煨の定義と下位分類、代表料理、補足として扒と煲、そして家庭で失敗しないための具体的な火加減と時間の目安を解説する。

4つの技法をひと言で比べる

まず、全体像を押さえておこう。中国の料理書では、四つの技法はおおよそ次のように整理される。

  • 焼:揚げる・焼きつける・ゆでるなどの下ごしらえをした材料に、スープと調味料を加えて強火で煮立て、色と味を決めてから弱火でじっくり煮る。仕上げに汁を煮詰めて味をからめる。
  • 燜:焼から派生した技法で、油通しや下ゆでをした材料にスープと調味料を加え、ふたをして弱めの火でやわらかくなるまで長めに煮る。ふたを閉じて蒸気と香りを逃がさず、少量の煮汁を残して仕上げる。
  • 燉:材料をたっぷりの汁に入れて長時間煮る。食べるときにも汁が十分に残る。
  • 煨:大きめに切った、質の硬い材料を多めの汁に入れ、ごく弱い火で非常に長い時間をかける。硬い肉や老鴨など、時間をかけないとやわらかくならない材料に使う。

火の穏やかさで並べると、焼より燜、燜より燉、そして煨がいちばん穏やかで、時間も長い。煨は「沸きそうで沸かない」、燉は「ときどき小さな泡が上がる」くらいの火加減とイメージするとわかりやすい。

焼(シャオ):煮詰めて味をからめる

焼は、中国の煮込みのなかで最も幅広く使われる技法だ。下ごしらえで表面を焼きつけたり揚げたりしておくのは、煮くずれを防ぎ、香ばしさを加えるためである。焼は、色と味つけによって次のように分けられる。

  • 紅焼(ホンシャオ):醤油や砂糖のカラメル(糖色)で赤褐色に仕上げる。材料は豚バラ、スペアリブ、鯉、手羽先など、比較的大きく厚いものが多い。
  • 白焼(バイシャオ):醤油を使わず、塩とスープで白っぽく仕上げる。汁は白く濃厚に仕上げることが多い。
  • 干焼(ガンシャオ):四川の技法で、汁気がほぼなくなるまで煮詰める。とろみ粉は使わない(または控えめにする)のが原則で、材料自身のゼラチン質で汁を自然に濃くし、「油は見えるが汁は見えない」状態に仕上げる。干焼岩鯉が古典で、干焼蝦仁や干焼魚も同じ考え方だ。辛い料理を指す言葉ではない点に注意したい。
  • 醤焼(ジャンシャオ):甜麺醤や腐乳などの醤で味と色をつける。
  • 葱焼(ツォンシャオ):長ねぎを油でじっくり炒めて香りを出すのが要。葱焼海参(なまこの葱焼)が代表だ。
  • 辣焼(ラーシャオ):唐辛子の醤を主な調味料にする。家常豆腐などがこれにあたる。

紅焼の色づけには、二つの方法がある。老抽で色をつける方法は手軽だが、色が暗めになりやすい。砂糖や氷砂糖を油で炒めて琥珀色のカラメルにする「炒糖色」は、つやのある赤い色に仕上がる。上海の本帮紅焼肉は、生抽で味、老抽で色をつけ、氷砂糖を加えて弱火で約1時間煮てから中火で汁を煮詰める。湖南の毛氏紅焼肉は、氷砂糖を中弱火で琥珀色に溶かしてから肉を入れ、約1時間半煮てから強火で汁を詰める。地域で手順は違っても、「弱火で長く煮る→強火で一気に煮詰める」という流れは共通している。

燜(メン):ふたをして蒸らし煮にする

燜は、焼から派生した技法とされる。材料を下ごしらえしてからスープと調味料を加え、ふたをしっかり閉めて弱めの火で長めに加熱し、やわらかくなったら少量の煮汁を残して仕上げる。ふたを開けずに蒸気をこもらせるので、香りが逃げにくく、材料が汁を吸ってやわらかくなる。

燜は、調味の違いで次のように呼ばれる。

  • 紅燜(ホンメン):醤油・糖色・甜麺醤など赤い色の調味料を使い、濃い赤褐色に仕上げる。紅燜肉・紅燜鶏塊などがある。
  • 黄燜(ホアンメン):紅燜と手順は近いが、色を浅く、金色がかった黄色に仕上げる。黄燜鶏塊が代表で、全国チェーンで知られる黄燜鶏米飯もこの流れにある。
  • 油燜(ヨウメン):材料を先に油通しして水分を少し抜き、強火で煮立ててから中弱火で燜し、途中で油を足していく。えび、なす、ピーマンなど水分の多い材料に向き、油燜大蝦や油燜尖椒が代表だ。
  • 醤燜(ジャンメン):豆瓣醤や大豆の醤を先に炒めて香りを出してから材料を加えて燜す。醤燜鯉魚などがある。

広東では、似た技法を「炆(マン)」と呼ぶ。弱火で2〜3時間、ふたをして煮る方法で、北方の「焼」に近いとされ、「南炆北焼(南の炆、北の焼)」という言い方もある。柱候醤や腐乳で味をつけた牛バラ肉や羊バラ肉の煮込みが典型だ。

燉(ドゥン):たっぷりの汁で長く煮る

燉は、材料をたっぷりの汁と一緒に強火で煮立て、中弱火に落として長時間煮る技法だ。煮汁ごと食べる料理が多く、肉は箸で崩れるほどやわらかくなる。中国の料理書では、清燉(醤油を使わず澄んだスープで煮る)、侉燉、隔水燉などに分けられる。

隔水燉は、材料とスープを燉盅(ふた付きの陶器の器)に入れ、器ごと蒸したり湯せんにかけたりして加熱する方法で、広東の燉湯(蒸しスープ)でよく使われる。器にふたをして、ふたと器のすき間を紙やラップでふさぐので、香りも水分も逃げない。燉湯の加熱時間は3〜4時間が一般的で、デザートのスープなら1時間半ほどとされる。燉に入る前に肉を下ゆで(汆水)して血やあくを除いておくと、スープが澄む。東北の東北乱燉や得莫利燉魚は、燉の名前を持つ代表的な家庭料理だ。

煨(ウェイ):沸かさずに、ひたすら待つ

煨は、四つのなかで最も穏やかな火加減の技法だ。大きめに切った硬い材料を多めの汁とともに土鍋に入れ、煮立ったらあくを除いて、あとはごく弱い火で長時間加熱する。牛肉や羊肉、老鴨など、硬くて筋の多い材料を、とろけるようにやわらかくするための技法である。色の違いで紅煨(醤油で煮る)と白煨(醤油を使わない)に分けられ、紅煨牛肉などが例に挙がる。仕上がりは非常にやわらかく、スープのうま味が濃い。

湖北や江西には、土の壺(瓦罐)でスープを煨す文化がある。南昌の瓦罐湯は、小さな壺に材料を入れ、大きな甕のなかで長時間加熱するスープだ。高級料理の佛跳墻も、さまざまな乾物と肉を壺に詰めて長時間煨す料理として知られる。

補足:扒と煲

  • 扒(パー):下ゆでや蒸しなどで先に火を通した材料を、形をくずさないように鍋に並べ、ほどよい濃度のとろみのある汁で仕上げる。鶏油扒、蚝油扒、紅扒などがあり、山東の徳州扒鶏も名前にこの字を持つ。
  • 煲(ボウ):広東語で土鍋のこと。土鍋で煮込み、熱々のまま食卓に出す料理の総称として使われる。啫啫鶏煲のように、強火で一気に仕上げる煲もある。

家庭で再現するコツ

  • 下ゆでは必ずする。焼・燉・煨のいずれでも、豚肉や牛肉はたっぷりの水に入れて沸騰させ、2〜3分ゆでてあくと血を流してから使う。これをしないと、スープが濁り、臭みが残る。
  • 煮汁に加える水は熱湯にする。肉を煮ている途中で冷たい水を足すと、肉の表面が急に縮んで硬くなりやすい。
  • 紅焼の糖色は、中弱火で砂糖を溶かし、大きな泡が細かい泡に変わって琥珀色になったところで肉を入れる。黒くなるまで焦がすと苦みが出るので、迷ったら早めに肉を入れてよい。
  • 燜と煨では、ふたをできるだけ開けない。砂鍋(中国の土鍋)や厚手の鍋は保温性が高く、弱火でも温度が安定する。
  • 煮込みの酒には、紹興酒などの黄酒を使う。紹興酒は黄酒の一種で、浙江・紹興の産のものを指す。日本酒で代用してもよいが、香りはかなり穏やかになる。
  • 火を止めたあと、ふたをしたまま30〜45分置くと、余熱で肉がさらにやわらかくなる。広東の炆でも、八分通り火が通ったら火を止めて余熱で仕上げる方法がとられる。
  • 香辛料は入れすぎない。八角は豚バラ500gに1〜2個、桂皮は5gほどが目安で、多すぎると薬っぽくなる。

よくある失敗

  • 肉が硬い:火が強すぎて煮汁がぐらぐら沸いている。燉や煨では、表面がわずかに揺れる程度まで火を落とす。
  • 紅焼肉の色が黒い:老抽を入れすぎている。老抽は色づけ用で、塩味は生抽でつける。
  • 最後に焦げる:干焼や紅焼で汁を煮詰めるとき、鍋から離れたことが原因であることが多い。煮詰めは強火で数分、鍋を揺すりながら付きっきりで行う。
  • 魚が煮くずれる:煮ている間に何度も返している。魚の焼は、鍋を前後に揺すったり回したりして、魚が鍋底に張りつかないようにするのが基本だ。

この記事で紹介した技法を使うレシピ

出典

本文は上記の情報源を参考に、独自に再構成・翻訳したものです。