中華料理の教科書

中国の醤油生抽・老抽・蒸魚豉油・醤油膏の違い

小皿に入った濃淡の異なる3種の醤油とガラスの醤油瓶、奥に豚の醤油煮の鉢を並べた写真風の画像
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中国のレシピを訳していると、「醤油」とだけ書かれていることはむしろ少ない。生抽を大さじ1、老抽を小さじ1/2、仕上げに蒸魚豉油、台湾なら醤油膏。日本の台所には濃口と薄口くらいしかないので、どれをどう置き換えればいいのか迷うところだ。

ざっくり言えば、生抽(シェンチョウ)は味つけ用の、色の淡い醤油だ。老抽(ラオチョウ)は、色とつやをつけるための濃い醤油だ。蒸魚豉油は、蒸し魚にかけるための甘めの醤油だれ。台湾の醤油膏は、とろみのある甘辛い醤油で、つけだれやかけだれに使う。同じ大豆の醤油でも、役割がはっきり分かれている。

紅焼肉のつややかな赤茶色は、老抽の仕事だ。清蒸魚の、あの透き通った甘じょっぱいたれは、蒸魚豉油の仕事だ。これを日本の濃口醤油一本で作ろうとすると、色が足りなかったり、しょっぱすぎたりする。逆にいえば、役割さえわかれば、日本の醤油と砂糖でかなりのところまで寄せられる。

ここから先では、中国・香港・台湾の主な醤油の種類と役割、ラベルの読み方、日本の醤油での代用のしかたを解説する。

中国の醤油は「役割」で分かれている

中国の醤油は、大豆(と小麦)を麹にして塩水で発酵させる点では日本と同じだ。違うのは、日本が地域や原料比で濃口・薄口・たまりと分けるのに対して、中国(とくに広東)は「料理のどの段階で、何のために使うか」で種類を分けていることだ。

広東語では醤油を「豉油(シーヤウ)」と呼ぶ。豉油鶏・豉油皇炒麺など、料理名にもよく出てくる。北方では「醤油」、四川では「醤油」のほかに、後で触れる「複製醤油」がある。

ミシュランガイドの香港版が紹介する醤園(醤油蔵)の分類では、おおむね次のような関係になっている。

  • 頭抽:一番搾り。最も香りが高い。
  • 生抽:頭抽・二番・三番搾りを配合した、味つけ用の醤油。
  • 老抽:生抽に糖分(カラメル)を加え、さらに熟成・濃縮させた色づけ用の醤油。
  • 甜豉油:生抽と老抽に砂糖や香味野菜を加えて煮た甘い醤油。蒸魚豉油・煲仔飯用醤油などはこの仲間。

生抽(シェンチョウ):味つけの主役

生抽は、中国料理でいちばん使う醤油だ。「抽」は醤油を汲み出すという意味で、「生」は火を入れていない(加工していない)ことを表す。色は日本の濃口醤油より明るい赤褐色で、香港では「淡豉油」とも呼ばれる。

生抽は日本の薄口醤油とは別物だ。薄口醤油は塩分が高く、色を淡くするために熟成を抑えているが、生抽は大豆の香りとうま味が濃く、炒め物・下味・冷菜のたれ・つけだれと、何にでも使える。

  • 頭抽(トウチョウ):最初に汲み出した醤油で、香りもうま味も最も強い。各メーカーの高級品で、つけだれや蒸し魚、炒飯の仕上げなど、香りを生かしたい場面に使う。
  • 特級・金標生抽:二番搾りを主体にした中位の品。日常の炒め物や下味の主力。
  • 味極鮮(ウェイジーシエン):生抽にうま味調味料(核酸系)を加えて、うま味を強めた商品群。北方の家庭でよく使われる。

ラベルの「氨基酸態氮(アミノ酸態窒素)」は、うま味の目安になる数値だ。中国の規格では100mlあたり0.8g以上が特級とされる。また「酿造酱油(醸造醤油)」と書かれたものを選ぶと、発酵由来の香りが確かだ。

老抽(ラオチョウ):色とつやを担う

老抽は、生抽にカラメル(糖色)や糖分を加え、日にさらしたり濃縮したりして作る、黒に近い色の醤油だ。とろりとしていて、なめると生抽ほどしょっぱくなく、ほのかに甘い。

老抽の役割は、ほぼ「色をつける」ことに尽きる。紅焼肉・紅焼排骨・滷肉飯のような醤油煮込みでは、生抽で味を決め、老抽で色を決める。使う量は、生抽の1/3〜1/4程度がふつうだ。入れすぎると、料理が真っ黒になり、カラメルの苦みも出る。

  • 炒め物では、最後に鍋肌から数滴たらすと、色づきと香ばしさが出る。干炒牛河(牛肉入り焼きビーフン)の麺の色は、老抽で決まる。
  • 炒飯の色を濃くしたいときも、老抽を小さじ1/2ほど使う。
  • 草菇老抽(きのこの風味を加えた老抽)という商品もある。使い方は同じだ。

紅焼肉の色は、氷砂糖を油で溶かしてカラメルにする「炒糖色」で出す流儀もある。氷砂糖で糖色を作る場合は、老抽を減らすか、使わないこともある。

蒸魚豉油:蒸し魚のための甘い醤油だれ

蒸魚豉油は、生抽をベースに、砂糖・酵母エキスなどを加えて、塩気を和らげ、甘みとうま味を足した醤油だれだ。広東式の清蒸魚では、蒸し上がった魚に、ねぎと生姜の細切りをのせ、熱した油をジュッとかけてから、蒸魚豉油を回しかける。

生抽をそのままかけると、塩気がとがって魚の甘みが負けてしまう。蒸魚豉油は、そのまま使ってちょうどいい塩加減に調整されているのがポイントだ。蒸し魚のほか、ゆで野菜(白灼菜心など)、蒸し豆腐、白灼蝦のつけだれにもそのまま使える。

煲仔飯用の醤油(煲仔飯豉油)も、同じく甘豉油の一種だ。蒸魚豉油があれば、煲仔飯のかけだれにもほぼそのまま使える。

台湾の醤油:蔭油と醤油膏

台湾の醤油は、大陸の醤油とは系統が少し違う。日本統治期の製法を受け継いだ、大豆と小麦の「豆麦醤油」が北部で主流なのに対し、中部の雲林・西螺などでは、黒豆を甕で天日にさらして発酵させる黒豆醤油が名産だ。

  • 蔭油(インヨウ):黒豆を原料に、甕の中で長く熟成させた醤油。とろりとして甘みがあり、黒豆特有の香りがある。甕の底に沈んだ濃い部分を汲み出したものは「壺底油」と呼ばれ、滷肉(醤油煮込み)の煮汁に入れると香りが深くなる。
  • 醤油膏(ジャンユーガオ):醤油に、殺菌の前にもち米のでんぷん液などを加えてとろみをつけたもの。甘辛く、どろりとした質感で、ゆで野菜・ゆで豚・碗粿・肉圓のつけだれやかけだれに使う。とろみがあるので、具の表面にとどまって流れ落ちない。

醤油膏は、日本の醤油に砂糖と片栗粉を加えて煮詰めると近いものができる。濃口醤油大さじ3、砂糖大さじ1、水大さじ2、片栗粉小さじ1/2を小鍋で混ぜてから火にかけ、とろみがついたら火を止める。

四川の甜醤油(複製醤油)

四川の成都には、醤油に紅糖(黒糖)・八角・桂皮などを加えて煮詰めた甘い醤油がある。「複製醤油」とも呼ばれ、鍾水餃・甜水麺・蒜泥白肉など、成都の小吃の味の芯になっている。紅油(ラー油)の辛さとにんにくの刺激の下に、甘じょっぱいコクが広がるのは、この醤油のおかげだ。

雲南にも同じく甘くとろみのある甜醤油があり、普通の醤油(咸醤油)と組み合わせて使う。

家庭で作るなら、醤油200ml、黒糖80g、水100ml、八角1個、桂皮5cmほどを小鍋に入れ、弱火で量が2/3ほどになるまで、20〜30分煮詰める。冷めるととろみが増す。冷蔵庫で1か月ほどもつ。

日本の醤油で代用するには

本場の醤油がない場合の、置き換えの目安をまとめておく。いずれも風味は別物になるが、味の方向性は近づけられる。

  • 生抽 → 日本の濃口醤油で代用できる。濃口は生抽よりやや色が濃く香りが強いので、色を淡く仕上げたい料理では量を1割ほど減らし、塩で補う。薄口醤油は塩分が高いので、同量で置き換えるとしょっぱくなりやすい。
  • 老抽 → たまり醤油が最も近い。なければ、濃口醤油大さじ1に、砂糖小さじ1/2と、市販のカラメルソースか黒蜜を数滴加える。色をつけるのが目的なので、ほんの少量でいい。
  • 蒸魚豉油 → 濃口醤油大さじ2、水大さじ2、砂糖小さじ2、鶏ガラスープの素ひとつまみを合わせ、一度煮立てて冷ます。
  • 醤油膏 → 上の項で書いた、醤油・砂糖・片栗粉の煮詰めで代用する。
  • 蔭油 → 濃口醤油で代用できる。少量の砂糖を加えると、甘みが近づく。
  • 頭抽 → 再仕込み醤油や、香りのよい本醸造の濃口醤油で代用する。

なお、オイスターソース(蠔油)は醤油ではないが、広東料理では生抽・老抽と組み合わせて、うま味とつやを補う役で使われることが多い。

保存と使い分けの実際

中国の醤油は、開封後は冷蔵庫で保存し、1〜2か月を目安に使い切る。台湾の醤油膏や蔭油も、開封後は冷蔵して1か月ほどで使い切るよう案内されている。とくに甘みやとろみのある蒸魚豉油・醤油膏・甜醤油は、常温に置くと風味が落ちやすい。

家庭でそろえるなら、まず生抽と老抽の二本があれば、中国の醤油料理の大半は作れる。広東料理をよく作るなら蒸魚豉油を、台湾料理なら醤油膏を足すといい。

よくある失敗

  • 煮込みが黒くなりすぎる:老抽を生抽と同じ量で入れている。老抽は生抽の1/3以下から始め、色を見ながら足す。
  • 炒め物がしょっぱい:生抽のかわりに日本の薄口醤油を同量入れている。薄口醤油は塩分が強いので、2割ほど減らす。
  • 蒸し魚が生臭く、しょっぱい:生抽を直接かけている。蒸し汁は一度捨て、ねぎと生姜をのせて熱い油をかけてから、蒸魚豉油(または代用だれ)をかける。
  • 老抽を最初から入れて焦げる:老抽は糖分が多いので、強火で長く炒めると焦げやすい。炒め物では最後に入れる。

この記事で紹介した調味料を使うレシピ

出典

本文は上記の情報源を参考に、独自に再構成・翻訳したものです。