中華料理の教科書

中華の発酵食品豆豉・腐乳・酸菜・芽菜・梅干菜の使い方

豆豉、瓶入りの腐乳、刻んだ漬け菜、黒い干し漬け菜、唐辛子の漬物を小鉢に並べた発酵食品の写真風の画像
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中国のレシピを訳していると、調味料欄に見慣れない漬物や発酵食品がよく出てくる。豆豉、腐乳、芽菜、梅干菜、酸菜、雪菜、酸笋。どれも少量しか使わないのに、抜くと料理の輪郭がぼやけてしまう、いわば「味の芯」になる材料だ。

日本でいえば、味噌や漬物、塩辛を料理の調味に使う感覚に近い。ただ中国の場合、その種類が地域ごとに驚くほど多い。黒い粒の豆豉は広東の蒸し物にも四川の麻婆豆腐にも入るし、豆腐を発酵させた腐乳は北京のしゃぶしゃぶのたれにも広東の青菜炒めにも使われる。漬け菜だけでも、東北の白菜の酸菜、四川のからし菜の酸菜、宜賓の芽菜、紹興の梅干菜、寧波の雪菜と、原料も作り方も別物だ。

名前が似ているせいで混同されやすく、日本の通販で「酸菜」を買ったら思っていたものと違った、ということも起こりがちだ。逆にいえば、それぞれの正体と使い方を知っておけば、レシピを読むときに迷わなくなるし、手に入らないときの代用も考えやすくなる。

ここから先では、中華料理でよく使う発酵食品の種類と正体、下ごしらえと使い方、代用の考え方を、料理名の例と一緒に解説する。

豆豉(トウチ):黒い粒のうま味のかたまり

豆豉は、大豆を蒸して麹菌などで発酵させ、塩を加えて熟成させたものだ。中国の解説では、豆豉は一種類の調味料ではなく「大家族」だとされる。分け方はいくつかある。

  • 原料で分ける:黒大豆の黒豆豉と、黄大豆の黄豆豉。
  • 水分で分ける:乾いた干豆豉、半乾き、汁気の多い水豆豉。日本でよく見る黒くしわの寄った粒は干豆豉だ。
  • 発酵させる微生物で分ける:毛カビ(毛霉)型、麹カビ(曲霉)型、細菌型。細菌で発酵させるタイプは、日本の納豆と同じ仲間にあたる。
  • 塩の有無で分ける:塩を加えた咸豆豉と、塩を加えない淡豆豉。淡豆豉は主に漢方の生薬として使われる。

名産地としてよく挙がるのは、広東の陽江豆豉(黒大豆・麹カビ型の干豆豉で、粒がしっかりしている)、重慶の永川豆豉(黄大豆・毛カビ型で、やわらかくほろりとくずれる)、湖南の瀏陽豆豉、四川・三台の潼川豆豉だ。広東の豉汁蒸排骨のように粒の形を残したい料理には陽江系、四川の麻婆豆腐や回鍋肉のように油になじませたい料理には四川系、と使い分けると本場の印象に近づく。

使い方の基本は「刻んで、油で香りを出す」だ。

  • 乾いた豆豉は、表面の塩とほこりを落とすためにさっと水で洗い、水気を切ってから粗く刻む。刻むと香りが立ちやすく、料理全体に行き渡る。
  • 炒め物では、にんにくやしょうがと一緒に中火の油で20〜30秒炒め、香りが立ってから主材料を入れる。強火で焦がすと苦くなる。
  • 蒸し物では、刻んだ豆豉をにんにく・砂糖・油と混ぜて豉汁を作り、肉や魚にのせて蒸す。
  • 塩分が強いので、豆豉を大さじ1使ったら、醤油や塩はレシピより控えめにして味見で調整する。

腐乳(フールー):豆腐のチーズ

腐乳は、豆腐を小さく切って毛カビなどを生やし、塩水や酒、調味液に漬けて熟成させたものだ。カビが出す酵素でたんぱく質が分解され、とろりとやわらかい食感とうま味が生まれる。豆腐乳、醤豆腐とも呼ぶ。色と作り方で大きく三つに分かれる。

  • 白腐乳:豆腐の色のままで、熟成期間が比較的短い。南方に多く、広西の桂林腐乳が有名。青菜炒めや粥のおかずなど、あっさりした料理に向く。
  • 紅腐乳:表面が赤いもの。四川・重慶では粉唐辛子をまぶして赤くし、北方や江南では紅麹で赤く色を付ける。広東では江南から来た紅腐乳を「南乳」と呼び、地元の白腐乳と区別する。豚の煮込みや扣肉に入れると、色とコクが一気に深くなる。
  • 青腐乳(臭腐乳):塩を控え、特別な漬け汁で熟成させたもの。硫黄系の強い匂いがあり、「臭方」とも呼ばれる。北京の王致和が代表的な銘柄だ。

料理に使うときは、1〜2個をつぶし、瓶の漬け汁と一緒に使うのが基本だ。紅焼肉に紅腐乳2個と漬け汁を加えると、赤い色とまろやかなうま味が出る。広東の腐乳炒通菜(空心菜の腐乳炒め)は白腐乳、南乳炒通菜は南乳を使う。北京の涮羊肉のたれでは、芝麻醤に腐乳と韭菜花を混ぜるのが定番だ。腐乳は塩辛いので、加えたら塩は最後に味を見て足す。

四川の漬け菜:芽菜・榨菜・冬菜

四川には「四大腌菜」と呼ばれる漬け菜がある。どれもからし菜の仲間(中国語では青菜の変種)を原料にするが、使う部位と作り方が違う。

  • 芽菜(ヤーツァイ):宜賓の名産で、小葉のからし菜の若い茎を細かく切って塩漬けにしたもの。塩味の咸芽菜と、黒糖で甘く漬けた甜芽菜がある。料理の「味を決める」役割が大きく、担担麺や宜賓燃麺のそぼろ、干煸豆角などの干煸料理、蒸し物の焼白の下敷きに使われる。
  • 榨菜(ザーツァイ):重慶・涪陵の名産で、茎用からし菜のふくらんだ茎を漬けたもの。加工の途中で余分な水分を絞る(榨る)ことからこの名がある。そのままご飯のおかずにするほか、榨菜肉絲や榨菜肉絲湯などに使う。
  • 冬菜:南充や資中の名産で、大きな葉のからし菜を香辛料と漬け込んで長く熟成させたもの。スープや蒸し物にうま味を足すのに使う。

芽菜は袋から出したら、ザルに入れてさっと洗い、よく絞ってから使う。ひき肉を炒めて水分が飛んだところに加え、弱めの中火で1分ほど炒めると、甘じょっぱい香りが立つ。芽菜大さじ2に対して、ひき肉100gくらいが目安だ。

江南の漬け菜:梅干菜と雪菜

浙江や安徽の料理でよく出てくるのが、梅干菜と雪菜だ。

  • 梅干菜(メイガンツァイ):からし菜の一種の雪里蕻(せつりこう)などを塩漬けにし、天日で干した保存食。黒っぽい色はカビではなく、乾燥と熟成の途中で糖が変化した色だ。紹興の梅干菜焼肉、安徽の梅干菜を使う焼餅などに使う。
  • 梅菜:広東の恵州・梅州あたりで作る、からし菜の漬け干し菜。味は梅干菜より甘めで、梅菜扣肉に欠かせない。梅干菜と梅菜は同じものとして売られていることも多いが、産地と原料の品種が違う。
  • 雪菜(シュエツァイ):雪里蕻を干さずに塩漬けにしたもの。寧波では咸齏(シエンジー)とも呼ぶ。杭州の片児川(雪菜と豚肉と筍の麺)や、寧波の雪菜大湯黄魚に使う。

梅干菜は、ぬるま湯に15〜20分つけて戻し、何度か水を替えながら砂を洗い流してから、固く絞って刻む。雪菜は干していないのでそのまま使えるが、塩気が強い場合は一度水にさらして味を見るとよい。どちらも塩分が多いので、料理の塩は後から足すのが安全だ。

酸菜:東北と四川でまったく別物

同じ名前でも、地域によって中身がまるで違うのがこの漬け菜だ。ここがいちばん混乱しやすい。

  • 東北の酸菜:白菜を数日干し、外葉を湯通ししてから、粗塩と一緒に甕に重ねて石で押し、水を張って乳酸発酵させる。黄色っぽく、すっきりした酸味が特徴だ。酸菜白肉や酸菜燉粉条、酸菜餃子に使う。
  • 四川の酸菜:大葉のからし菜を干して湯通しし、塩・にんにく・花椒・八角・唐辛子・しょうがと一緒に漬物用の壺(泡壇)に入れ、元の漬け汁(母水)を注いで漬ける。緑がかった色で、酸味と発酵香が強い。酸菜魚や酸菜老鴨湯に使う。
  • 貴州・雲南の酸菜:貴州では米のとぎ汁を発酵させた酸湯で塩を使わずに漬けるものがあり、雲南では葉物を黒糖や唐辛子、酒と漬けるものがある。

東北の酸菜は細切りにして水で軽く洗い、絞ってから豚バラと煮込む。四川の酸菜は薄く切って、油で炒めて香りを出してから湯を注ぐのが基本だ。四川の酸菜が手に入らないときは、酸菜が入った市販の老壇酸菜魚の素を使うと手軽だ。

泡菜・酸笋・臭豆腐:酸っぱいもの、匂うもの

  • 泡菜(パオツァイ):四川の泡菜は、塩水と香辛料で野菜を乳酸発酵させた漬物の総称だ。泡壺で漬けた唐辛子は泡椒、ささげは酸豆角、大根は酸萝卜と呼ばれ、それぞれ料理の調味料になる。魚香味の決め手は泡椒、酸豆角炒肉末の主役は酸豆角だ。市販の泡菜はそのまま箸休めにもなる。
  • 酸笋(サンスン):広西を中心に作られる、筍を発酵させた漬物。柳州の螺蛳粉の独特の匂いは、主にこの酸笋から来ている。研究では、発酵した酸笋に含まれるペンタナールなどの成分が、あの匂いのもとだとされる。酸笋は水で洗い、乾いた鍋で水分を飛ばしてから油で炒めると、匂いが香ばしさに変わる。
  • 臭豆腐:豆腐を発酵した漬け汁(滷水)に漬けたもの。長沙の黒い臭豆腐は揚げてたれをかけ、江南や台湾の白っぽい臭豆腐は揚げたり煮込んだりする。安徽の毛豆腐は、豆腐に毛カビを生やしてから焼くもので、腐乳の手前の段階に近い。臭豆腐は冷凍品なら解凍して水気をふき、170℃前後の油で表面がふくらむまで揚げる。

酒粕を使う「糟」も発酵の調味料だが、作り置きの技法と一緒に「滷・醤・燻・腌」の記事で扱った。福州の紅糟は、紅麹で発酵させた酒粕で、赤い色と甘い香りを同時に付ける。

家庭で使いこなすコツ

  • 塩は最後に決める。発酵食品はどれも塩分が強い。豆豉・腐乳・芽菜・梅干菜を入れる料理では、レシピの塩を半分にして作り始め、仕上げに味見して足すと失敗しない。
  • 油で香りを出す。豆豉・芽菜・酸菜・酸笋は、油で炒めることで発酵の匂いが香ばしさに変わる。中火で20秒〜1分が目安だ。
  • 開封後は冷蔵する。腐乳は漬け汁に浸かった状態を保ち、清潔な箸で取り出す。豆豉や芽菜は密閉容器に移すと、冷蔵で長持ちする。
  • 代用は「役割」で考える。豆豉は八丁味噌を少量、腐乳は白味噌(紅腐乳なら赤味噌)、芽菜はザーサイの細切り、雪菜は高菜漬け、酸笋はメンマに米酢を少し足して近づけられる。ただし発酵香までは再現できないので、本物を一度使ってみる価値はある。
  • 郫県豆瓣醤も、そら豆と唐辛子の発酵調味料だ。豆豉と一緒に使う麻婆豆腐のように、発酵食品を重ねることでうま味の層が厚くなる。

この記事で紹介した調味料を使うレシピ

出典

本文は上記の情報源を参考に、独自に再構成・翻訳したものです。