中華料理の教科書

上漿と掛糊肉を柔らかくする中華の下味と衣を徹底解説

ガラスのボウルで下味をつけた豚肉の細切り、白いでんぷんの小皿、卵の殻、衣をまとった肉の器の写真風の画像
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中華料理店の青椒肉絲や水煮牛肉の肉は、どうしてあんなにつるりとやわらかいのか。家で同じ部位を使って炒めても、肉は縮んでかたくなり、ぱさついてしまう。その差の大部分は、火にかける前の下ごしらえで決まっている。

中国の料理書では、加熱前に材料にまとわせるものを、大きく三つに分けている。でんぷんと卵白や水を薄く揉み込む「上漿(シャンジャン)」、粉と液体を合わせたどろりとした衣をつける「掛糊(グアフー)」、乾いた粉をはたく「拍粉(パイフェン)」だ。上漿は滑らかでやわらかい炒め物に、掛糊はカリッとした揚げ物やあんかけに、拍粉は焼き物や切り目を入れた揚げ物に、とおおよそ役割が分かれている。

この三つは見た目が似ているので、日本のレシピではまとめて「片栗粉をまぶす」と書かれることが多い。けれど、粉と水分の比率や卵の使い方が少し違うだけで、仕上がりの食感はまったく別物になる。どの料理にどれを使うかがわかれば、手持ちのレシピの「なぜ」も見えてくる。

ここから先では、下味(碼味)から上漿・掛糊・拍粉の種類と配合の目安、重曹を使った牛肉の下ごしらえ、失敗しないためのコツを解説する。

上漿・掛糊・拍粉の違い

料理書の定義を整理すると、三つの違いは次のとおりだ。

  • 上漿:でんぷんに卵白や水を合わせた薄い「漿(ジャン)」を、材料に直接揉み込む。必要に応じて酒・塩・重曹を加える。主に滑炒・滑熘(低温の油で滑らせるように火を通す炒め物やあんかけ)に使う。
  • 掛糊:粉に卵や水を合わせた濃い「糊(フー)」で材料を包む。主に炸(揚げ物)・熘(揚げてからあんをからめる)・煎(焼き)に使う。
  • 拍粉:味をつけた材料に、乾いた小麦粉やでんぷんをはたく。「蘸粉(ジャンフェン)」とも呼ぶ。

一言でいえば、上漿は「漿(液)」、掛糊は「糊(衣)」、拍粉は「乾いた粉」だ。どれも、材料の水分とうま味を閉じ込め、形を保ち、表面につやや色をつけるという目的は共通している。

碼味(マーウェイ):上漿の前の下味

上漿の前には、まず材料に下味をつける。これを碼味という。塩・黄酒・生抽などを加え、手で一方向にしっかり揉む。肉の表面に粘りが出て、水分を抱え込めるようになってから粉を加えるのが順番だ。

料理書は、上漿の前に材料の表面に余分な水が残っていてはいけない、と念を押している。洗った肉はキッチンペーパーで水気をよく拭き、先に少量の塩を加えて揉み、粘りを出してから次へ進む。

上漿の種類と配合の目安

上漿は、でんぷんに何を合わせるかで三つに分かれる。

  • 蛋清漿(ダンチンジャン):卵白とでんぷん。仕上がりが白く、もっともなめらか。鶏肉、えび、白身魚など色を白く保ちたい材料に。上海の水晶蝦仁のように透明感を見せる料理もこれだ。
  • 全蛋漿(チュエンダンジャン):全卵とでんぷん。なめらかで、ほんのり黄色くなる。豚肉の細切りや魚の切り身に。
  • 水粉漿(シュイフェンジャン):水とでんぷんだけ。ゆでる・汆(さっと湯に通す)・熘の料理に使い、つるんとやわらかく仕上がる。

ある料理書が示す配合例を家庭向けに整理すると、次のようになる。

  • 豚ヒレの細切り(炒里脊絲):肉250gに、水25g、卵白30g、でんぷん9g、塩3g、黄酒10g。
  • 白身魚の小さな角切り:魚250gに、卵白20g、でんぷん10g、塩2.5g。
  • 魚の切り身(番茄魚片):魚250gに、全卵45g、でんぷん18g、塩3g。

見てのとおり、上漿のでんぷんは肉の重さの4〜7%ほどで、思ったよりずっと少ない。水分をしっかり吸わせ、でんぷんは表面にごく薄い膜を張る程度、というのが上漿の考え方だ。

でんぷんの種類について、中国の解説では上漿にはとうもろこしでんぷん(コーンスターチ)がよく使われるとされる。日本の家庭なら片栗粉(じゃがいもでんぷん)でもよいが、片栗粉は粘りが強いので、分量はやや控えめにするとべたつかない。

重曹(小蘇打)で牛肉をやわらかくする

牛肉のように繊維がかたい材料には、重曹(小蘇打、シャオスーダー)を使う「蘇打漿」がある。料理書では、重曹を調味した肉に混ぜて1〜2時間おき、そのあと卵白とでんぷんを加えて上漿する方法が紹介されている。重曹が肉の保水力を高め、油通しのあとも肉がやわらかく保たれる。

家庭向けのレシピでは、牛肉500gに対して重曹3gという量がよく使われる。ある作り方では、牛肉を洗って水気を絞り、オイスターソース・塩・砂糖・生抽・老抽・卵黄・酒で下味をつけて3分以上一方向に混ぜる。そこに水150gを3回に分けて加え、そのたびに吸い込ませてから次を足す。最後にでんぷん15gで水分を閉じ込め、油大さじ1で表面をコーティングして15分ほどおく。重曹を入れた牛肉は、入れないものより多くの水を吸うという。

注意点は二つある。重曹は入れすぎると苦みと独特のにおいが出るので、肉500gに3gを超えないこと。苦みが気になる場合は砂糖を少し加えて和らげる。そして、必ず食用の重曹を使うことだ。

掛糊の種類

掛糊は、衣の材料で仕上がりが変わる。料理書には次のような分類がある。

  • 水粉糊(シュイフェンフー):でんぷんと水だけ。干炸(下味をつけて揚げる)や脆熘(揚げてあんをからめる)に使い、金色でカリッと香ばしく仕上がる。東北の鍋包肉は、でんぷんを水で溶いた濃い衣で揚げる、この系統の代表的な料理だ。
  • 蛋清糊(ダンチンフー):卵白とでんぷん。軟炸(やわらかい揚げ物)に使い、色は淡い。
  • 蛋黄糊・全蛋糊(チュエンダンフー):卵黄または全卵に、でんぷんと小麦粉。外はカリッと、中はやわらかく仕上がる。熘や炸に使う。
  • 蛋泡糊(ダンパオフー):卵白を、箸を立てても倒れないくらいまで泡立ててでんぷんを混ぜる。高麗糊・雪衣糊とも呼ぶ。白くふっくらした衣になる。
  • 発粉糊(ファーフェンフー)・脆漿糊(ツイジャンフー):ベーキングパウダーや酵母でふくらませる衣。酥炸・脆炸と呼ばれる、軽くサクサクした揚げ物に。

配合例としては、焦熘の衣(水粉糊)で肉200gにでんぷん75g・水30g前後、軟炸の衣(蛋清糊)で肉200gにでんぷん60g・卵白20g・水10g前後が挙げられている。上漿よりでんぷんの比率がはるかに高いことがわかる。ただし料理書自身が、粉の性質や材料の状態で変わるので固定の比率はない、と断っている。

福建や台湾では、さつまいもでん粉(地瓜粉)を揚げ衣に使うことも多い。粒が粗いので、揚げるとごつごつした独特の食感になる。

拍粉の三つの使い方

  • 粉だけをはたく:花刀(飾り切り)を入れた材料に使うと、切り目どうしがくっつかず、揚げると模様がはっきり出る。
  • 粉をはたいてから溶き卵にくぐらせる:薄い膜ができ、焼き物(煎)に向く。干煎黄魚(イシモチの焼き物)などに使う。
  • さらにパン粉やごまをつける:炸猪排(上海式のとんかつ)のように、香ばしさを強調する。

よくある失敗

  • 漿が肉から流れ落ちる(脱漿):漿と肉がよく混ざっておらず、粘りが出ていない。あるいは、肉の表面に水が残っていた。一方向にしっかり揉んで「上勁(粘りが出た状態)」にする。
  • 揚げたら衣がはがれる:糊が薄すぎるか、衣をつけてすぐ揚げたため、材料になじんでいない。料理書は、やわらかい材料や冷凍した材料には濃いめ、かたい材料には薄めの糊を勧めている。
  • 一部だけかたく縮む:衣が全体を包んでいない。包み残した部分から油が入り込み、そこだけかたく焦げる。
  • 肉がばらばらにならない:上漿した肉をそのまま油に入れたため。上漿の最後に油を少量混ぜておくと、ほぐれやすい。

家庭で再現するコツ

  • 炒め物の肉(200g)なら、塩1g・酒小さじ2・水大さじ1を揉み込んで吸わせ、卵白大さじ1、片栗粉小さじ2、油小さじ2の順に加えるのが扱いやすい基本形だ。
  • 上漿した肉は冷蔵庫で15〜30分休ませると、漿が落ち着いてはがれにくくなる。
  • 揚げ衣は、揚げる直前によく混ぜる。でんぷんは沈むので、底から返すように混ぜる。
  • 重曹を使った牛肉は、普通の肉より水を吸って重くなる。炒めるときは一度に入れすぎず、油に入れたらすぐにほぐす。

この記事で紹介した技法を使うレシピ

  • 京醤肉絲:豚肉の細切りに塩と酒を揉み込んでから卵白と片栗粉で上漿し、油で表面をコーティングする。
  • 水晶蝦仁:えびに重曹と塩で粘りを出し、卵白と片栗粉で上漿してから沸騰直前の湯で火を通す。
  • 水煮牛肉:牛肉の薄切りに卵白と片栗粉をまとわせ、辛いスープでさっと煮てやわらかく仕上げる。
  • 鍋包肉(锅包肉、グオバオロウ):じゃがいもでん粉を水に溶いて沈殿させたペーストを衣にし、二度揚げする東北の料理。
  • 糖醋里脊(甘酢豚ヒレ):棒状の豚ヒレに卵と片栗粉の衣をつけて二度揚げし、甘酢だれをからめる掛糊の代表例。
  • 鹹酥鶏:下味をつけた鶏肉に地瓜粉をまぶして二度揚げし、ごつごつした衣に仕上げる台湾の夜市料理。
  • 松鼠桂魚(ソンシューグイユー):花刀を入れた魚に片栗粉を切り込みの間までまぶし、揚げて切り目を開かせる拍粉の例。

出典

本文は上記の情報源を参考に、独自に再構成・翻訳したものです。