中華料理の教科書

蒸・汆・涮・灼の違い湯と蒸気を使う中華技法を徹底解説

中華鍋にのせた蒸籠の豆豉入り蒸し肉と、皿に盛ったむきえび、小皿のたれの写真風の画像
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中華料理というと強火と油のイメージが強いが、実は湯や蒸気を使って素材の味を生かす技法も、同じくらい大切にされている。清蒸魚、粉蒸肉、汆丸子、涮羊肉、白灼蝦。どれも油をほとんど使わず、熱い湯気や沸騰した湯の力で火を通す料理だ。

蒸(ジョン)は、蒸気で材料に火を通す技法で、魚を姿のまま蒸す清蒸から、炒った米の粉をまぶして蒸す粉蒸まで、驚くほど種類が多い。汆(ツアン)は、細かく切った材料や肉団子を沸騰した湯やスープにさっと入れて火を通し、汁ごと食べる技法。涮(シュワン)は、薄切りの肉を食べる人自身が鍋の湯にくぐらせる、しゃぶしゃぶの原型のような食べ方である。灼(ジュオ)は広東の言葉で、沸騰した湯で材料をさっと火を通し、たれをつけて食べる。

どれも「ゆでる」「蒸す」と訳せば済みそうだが、それぞれに火の強さ、時間、仕上げの考え方がある。とくに中国の料理人が口をそろえて言うのは「白灼は水煮ではない」ということだ。ただゆでるのと何が違うのか。この記事を読めば、その差が具体的にわかるはずだ。

ここから先では、蒸・汆・涮・灼のそれぞれの定義と分類、代表的な料理、蒸し魚の時間の目安や白灼の湯の温度など、家庭で役立つ具体的なポイントを解説する。

蒸(ジョン):蒸気で火を通す

蒸は、中国でもっとも古い調理法の一つとされ、蒸気を熱の媒体にして材料に火を通す。煮る・揚げると違って材料が動かないので形がくずれにくく、うま味が汁に流れ出しにくい。中国の料理解説では、蒸法を十数種類に分けるものもある。代表的なものを挙げよう。

  • 清蒸(チンジョン):濃い味つけをせず、生の材料に調味料やスープを加えてそのまま蒸す。生蒸とも呼ぶ。魚料理の基本形で、大きな材料は強火・沸騰した湯で長めに、細切りやさいの目切りは強火で短時間で蒸す。
  • 粉蒸(フェンジョン):下味をつけた材料に、炒った米の粗挽き粉(蒸肉米粉)とスープをまぶして蒸す。強火で蒸気を十分に上げ、長時間蒸すのが基本で、米の粉の量は主材料の1〜2割が目安とされる。江西の粉蒸肉や、湖北の沔陽三蒸がよく知られる。
  • 旱蒸(ハンジョン):調味料だけを加え、スープや水を加えずに蒸す。器にふたをしたり、口を封じたりすることもある。
  • 扣蒸(コウジョン):切った材料を順序よく器に詰めて蒸し、皿にひっくり返して盛る。梅菜扣肉のような「扣肉」がこれにあたる。
  • 包蒸(バオジョン):下味をつけた材料を蓮の葉や竹の葉、バナナの葉で包んで蒸す。
  • 滾蒸(滚蒸/グンジョン):材料の外側にもち米などをまぶしつけてから蒸す。
  • 放汽蒸(ファンチージョン):卵液やすり身など、ごくやわらかい材料に使う。せいろのふたを完全には閉めず、蒸気を逃がしながら中火でゆっくり蒸す。蒸し卵羹(中国の茶わん蒸し)がこれにあたる。

蒸す時間の目安として、ふたをきっちり閉めて蒸気を満たす「足汽蒸」の場合、やわらかく仕上げたい材料は8〜15分、煮くずれるほどやわらかくしたい材料でも1時間半以内とする解説がある。

清蒸魚:時間とたれの目安

清蒸魚は、蒸の技法を学ぶのに最適な料理だ。香港の料理人の解説では、次のような手順が紹介されている。

  • 魚は蒸す十数分前に冷蔵庫から出し、うろこをきれいに落とす。背と腹に一本ずつ切り目を入れ、身にもいくつか穴をあけて熱が均一に入るようにする。
  • 皿に長ねぎと箸を敷き、その上に魚をのせる。魚の下に空間ができて蒸気が回り、ねぎが臭みを和らげる。生姜の薄切りと少量の油(鶏油があればなおよい)をのせる。
  • 時間は、魚の重さ一斤(約600g)で6分、二斤(約1.2kg)で12分、それ以上は15分が目安。火力や皿の厚さで前後するので、途中でふたを開けないこと。
  • 仕上がりは、箸がすっと身に入れば火が通っている。生煮えで蒸し直すと食感が大きく落ちる。
  • たれは、蒸し魚用の醤油に砂糖を少し加えて温め、刻んだねぎの上から回しかける。家庭なら市販の蒸魚豉油を使うと手軽だ。

日本の家庭なら、たい、すずき、めばるなど、手に入る白身魚で十分においしく作れる。

汆(ツアン):沸いた湯にさっと入れる

汆は、薄切り・細切り・小さく丸めた肉団子など、すぐに火が通る材料を、沸騰した湯やスープに入れて手早く火を通す技法だ。仕上げにとろみはつけず、汁の多い状態で出すことが多い。汆丸子湯(肉団子のスープ)は、まさにこの技法の名前を冠した家庭料理である。

汆には、澄んだスープに仕上げる「清汆」と、具やスープを濁らせて濃厚にする「混汆」がある。湯の温度によって、沸騰した湯に入れる「沸汆」、熱い湯で入れる「熱水汆」、ぬるめの湯から入れる「温水汆」とも分けられる。肉団子は沸騰直前の湯に入れると表面が固まって形がくずれず、魚のすり身団子はぐらぐら煮立てずに静かに火を通すと、ふんわり仕上がる。

まぎらわしいのが「焯水(チャオシュイ)」との違いだ。焯水は、臭みや血を取るための「下ゆで」で、ゆでた材料をそのあと別の調理に使う。汆は、それ自体が料理の仕上げの加熱で、汁ごと食卓に出す。なお、「汆」は「氽(トゥン、水に浮く)」と字の形がよく似ているので、中国語のレシピを読むときは注意したい。

涮(シュワン):食べる人が自分でくぐらせる

涮は、火鍋の沸いたスープや湯に、箸でつまんだ薄切りの材料をくぐらせ、手早く火を通して食べる方法だ。北京の涮羊肉(羊肉のしゃぶしゃぶ)が代表で、真ん中に炭を入れる煙突付きの銅鍋で食べるのが、今も老北京の冬の風物詩になっている。

涮羊肉の起源には諸説ある。元の皇帝フビライの行軍中に生まれたという話は広く知られているが、史料の裏付けはないとされる。南宋の林洪が『山家清供』に書いた「撥霞供」はウサギ肉を湯にくぐらせる食べ方で(羊肉でもよいと注記がある)、今の涮羊肉に近いと指摘されている。一方で、今の形の涮羊肉が広まったのは清代、宮廷や旗人のあいだで冬に火鍋が盛んに食べられたことによる、という見方もある。清代の北京では前門外の正陽楼が涮羊肉で名を知られ、民国期に入ると東来順がその料理人を招いて評判を高めた。

涮で大事なのは、肉を薄く切ることと、湯をぐらぐらに沸かしておくことだ。羊肉なら色が変わった瞬間が食べ時で、数秒から十数秒しかかからない。たれは、芝麻醤をぬるま湯で少しずつのばし、生抽・酢・砂糖、韭菜花(ニラの花の塩漬け)、つぶした腐乳(北京では醤豆腐と呼ぶ)、ごま油を順に混ぜていくのが北京の家庭の作り方だ。辣椒油と香菜は好みで加える。芝麻醤は、スプーンですくったときに細い一本の線になって途切れずに落ちる濃さが目安とされる。重慶の毛肚火鍋で、センマイを麻辣のスープにくぐらせて食べるのも、同じ涮の技法である。

灼(ジュオ):広東の「白灼」は水煮ではない

灼は広東語の調理用語で、とくに「白灼(バイジュオ)」の形でよく使われる。沸騰した湯で材料に火を通し(あるいは湯に浸して火を通し)、たれやつけだれを添えて食べる方法で、素材そのもののうま味を味わうための技法だ。

中国の料理人が強調するのは、白灼は単なる水煮ではないということだ。湯には生姜やねぎ、酒などを加えて臭みを抑え、うま味を補う。そして何より、火を通しすぎないことが命である。白灼には二通りのやり方があると説明される。

  • 文灼(ウェンジュオ):90℃前後の湯に浸して、じっくり火を通す。えびのように、ある程度厚みがあるもの、切らずに丸ごと使うものに向く。
  • 武灼(ウージュオ):ぐらぐらに沸かした湯で、手早く火を通す。レタスやいかの薄切りなど、すぐに火が通るものに向く。レタスなら、沸騰した湯に入れて5秒ほどで引き上げる。

白灼蝦は、殻付きのえびを白灼にして、醤油ベースのつけだれで食べる広東の定番だ。白灼菜心(菜心のゆで物)も同じ考え方で、ゆでた青菜に油と醤油ベースのたれをかける。白切鶏が、丸鶏を湯に浸して火を通す「浸」の技法で作られるのも、灼の兄弟分といえる。

家庭で再現するコツ

  • 蒸し器は、湯がしっかり沸いてから材料を入れる。冷たいうちから入れると、表面が水っぽくなり、魚なら臭みが出やすい。蒸籠を使う場合は、鍋の湯を蒸籠の底から2cmほど下になる量にして、空だきに注意する。
  • 蒸し魚は、蒸し上がったら皿にたまった蒸し汁を捨ててから、たれとねぎをのせる。蒸し汁には臭みが出ているので、そのまま使わない。
  • 汆の肉団子は、水でぬらした手で丸め、中華お玉ですくって湯に落とすと、形がそろう。一度にたくさん入れると湯の温度が下がるので、数回に分ける。
  • 白灼のえびは、湯を沸かして火を止めるか、ごく弱火にしてからえびを入れ、色が変わって丸まったらすぐ引き上げる。網じゃくしがあると、湯からの引き上げが早くなる。
  • 涮の肉は、半冷凍の状態で切ると薄く切れる。家庭なら、しゃぶしゃぶ用の薄切り肉を使うのがいちばん簡単だ。

よくある失敗

  • 蒸し魚の身がパサつく:蒸しすぎ。重さを量って、時間を守る。途中でふたを開けると温度が下がり、かえって時間が読めなくなる。
  • 粉蒸肉がパサパサ:米の粉に対して水分が足りない。米の粉をまぶしたあと、スープや水を加えて、粉が湿った砂のようになるまで混ぜてから蒸す。
  • 卵羹にすが立つ:火が強すぎる。卵液は放汽蒸の考え方で、ふたを少しずらして中弱火で蒸す。
  • 白灼のえびが硬い:ぐらぐら煮立てた湯で長くゆでている。えびは文灼の考え方で、沸騰させない湯に浸して火を通す。

この記事で紹介した技法を使うレシピ

出典

本文は上記の情報源を参考に、独自に再構成・翻訳したものです。