中華料理の教科書

勾芡(とろみ)の付け方片栗粉・コーンスターチ・さつまいも粉の違い

中華鍋で炒めた豚肉、白菜、にんじん、きのこのとろみのある炒め物とお玉、白い液体の小鉢の写真風の画像
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中華料理の仕上げに欠かせないのが、水溶きのでんぷんでつける「とろみ」だ。中国語ではこれを「勾芡(ゴウチエン)」と呼び、とろみのついた汁を「芡汁(チエンジー)」と呼ぶ。広東では「打芡(ダーチエン)」とも言う。中国の料理書では、勾芡は中華の調理のなかでも最も伝統的な基本技術の一つとされている。

とろみは、ただ汁をどろりとさせるためのものではない。短時間の炒め物でも、たれを材料の表面にまとわせて味をのせる。料理を冷めにくくする。表面につやを出す。汁気を材料に抱えさせて、皿の上で水が出るのを防ぐ。麻婆豆腐の豆腐がつるりとして味がしっかりしているのも、宮保鶏丁のたれが鶏肉にぴったり張りついているのも、勾芡のおかげだ。

一方で、勾芡は失敗しやすい工程でもある。ダマになる、どろどろに固まる、しばらくすると水っぽく戻る、粉っぽい味が残る。原因はたいてい、とろみの濃さの選び方、入れるタイミング、火加減、でんぷんの種類のどれかにある。

ここから先では、芡汁の濃さの種類と使い分け、合わせ調味料(碗汁)で一気につける方法と水溶きでんぷんで後からつける方法、片栗粉・コーンスターチ・さつまいもでん粉などでんぷんごとの性質、失敗しないためのコツを解説する。

勾芡のしくみと役割

勾芡は、料理の仕上げ近くに水で溶いたでんぷんを加え、加熱してでんぷんを糊化させ、汁にとろみをつける技術だ。料理書や料理人の解説では、その役割を次のように挙げている。

  • 汁の濃さを整え、短時間の加熱でも味を材料にまとわせる。
  • 汁と具をなじませ、具が皿の底に沈まないようにする。
  • 熱を閉じ込め、料理を冷めにくくする。
  • つやを出し、見た目をよくする。
  • 揚げた材料に濃いあんをからめて、外はカリッと中はやわらかく保つ。

逆に、汁の少ない干煸(からいり)のような料理や、醤や蜂蜜・大量の砂糖で自然に照りが出る料理には、勾芡は必要ない。

芡汁の濃さ:包芡・糊芡・流芡・米湯芡

芡汁は、とろみの濃さによって大きく四つに分けられる。

  • 包芡(バオチエン):いちばん濃く、汁がすべて材料に張りつく。食べ終わった皿に「油は見えても汁は残らない」のが理想とされる。爆や炒など強火で短時間に仕上げる料理に使い、爆炒腰花や魚香肉絲がその例だ。
  • 糊芡(フーチエン):包芡より薄く、汁がとろりとした糊状になる。焼(煮詰める)・燴(とろみ煮)・扒(形を崩さず煮る)の料理に使う。麻婆豆腐がその代表例に挙げられている。
  • 流芡(リウチエン):さらに薄く、皿の上で汁が流れる程度。汁の多い料理や、大きな材料の上からかける料理に。芙蓉鶏片や糟熘魚片などが例だ。
  • 米湯芡(ミータンチエン):いちばん薄く、重湯(米を煮たときのとろりとした汁)のような濃さ。スープや羹に使い、汁をわずかに濃くして具を浮かせる。西湖牛肉羹のような羹がこれにあたる。

このほか、澄んで透きとおった薄いとろみを「玻璃芡(ボーリーチエン、ガラスのとろみ)」と呼んだり、とろみがついた後に油を回し入れてつやを出すものを「明油芡(ミンヨウチエン)」と呼んだりする。北方では「明油亮芡(油が明るく、芡が光る)」という言い方もある。

また、紅焼肉や紅焼魚のように、肉や皮のコラーゲン、砂糖、醤が長い加熱で煮詰まって自然にとろみがつくものを「自来芡(ズーライチエン)」と呼ぶ。でんぷんを使わずにこの状態に持っていけるかどうかが、料理人の腕の見せどころとされている。

つけ方①:碗汁(合わせ調味料)で一気に

一つ目のつけ方は、調味料とでんぷんと水を先に小さな器で合わせておき、仕上げに一度に加える方法だ。「兌汁芡(ドゥイジーチエン)」「碗汁(ワンジー)」、あるいは味の入った芡という意味で「味芡(ウェイチエン)」とも呼ぶ。

材料に九割ほど火が通ったところで回し入れ、鍋をあおって手早くからめ、すぐ皿に移す。宮保鶏丁や魚香肉絲のように、強火で一気に仕上げる爆・炒・熘の料理はほとんどこの方法だ。炒めながら一つずつ調味料を加えていく時間がないので、味もとろみも一回で決める。事前に合わせておくので、味が毎回そろうのも利点だ。

つけ方②:水溶きでんぷんを後から

二つ目は、でんぷんを水だけで溶いた「水粉芡(シュイフェンチエン)」を、味を決めた後に加える方法だ。加え方には次のような種類がある。

  • 淋芡(リンチエン):水溶きでんぷんを細く回し入れ、鍋をあおって全体にからめる。
  • 推芡(トゥイチエン):回し入れたら、お玉で鍋底をやさしく押すように動かしたり、鍋をゆすったりしてなじませる。豆腐のように崩れやすく、あおれない料理に。麻婆豆腐はこれだ。
  • 澆芡(ジャオチエン):材料を先に皿に盛り、残った汁や別に作ったスープにとろみをつけて、上からかける。揚げた魚の甘酢あんや、蒸した料理の上にかけるあんなど。

上海料理の解説では、さらに凝った使い方も紹介されている。響油鱔糊(うなぎの細切りの炒め物)は、濃い芡で香ばしさを出してから薄い芡を重ねる「二次勾芡」、麻婆豆腐は、とろみを数回に分けて加え、豆腐の水分を抱え込ませて皿の上で水が出ないようにする「三次勾芡」の例として挙げられている。

でんぷんの種類と性質

中国で使われるでんぷん(淀粉)には多くの種類があり、とろみの質が少しずつ違う。

  • 馬鈴薯淀粉(じゃがいもでんぷん):日本の片栗粉にあたる。台湾では「太白粉」と呼ぶ。とろみの強さとつやがほどよく、透明度が高い。中国の解説では、勾芡・上漿・掛糊のいずれにも使え、とくに勾芡に向くとされる。ただし冷めるとゆるみやすい。
  • 玉米淀粉(とうもろこしでんぷん):日本のコーンスターチにあたる。広東では「粟粉」と呼ぶ。ほんのり黄色みがあり、吸湿性が強い。中国では肉の下味(上漿)や揚げ衣によく使われる。とろみは片栗粉より穏やかで、透明度はやや低い。香港の料理人の話では、広東料理の店では「生粉」と呼ばれるでんぷんが多く使われ、家庭では粟粉がよく使われるという。
  • 紅薯淀粉(さつまいもでんぷん):日本ではさつまいもでん粉の名で売られている。粒が粗く、吸水力と粘りが強く、煮崩れしにくい。春雨(紅薯粉条)の原料で、小酥肉(豚肉の小さな揚げ物)の衣にもよく使われる。
  • 緑豆淀粉:粘りが強く、色が白い。春雨や涼粉(緑豆のでんぷんを固めた料理)、涼皮に使われる。日本では緑豆澱粉として中華食材店などで手に入る。
  • 木薯粉(タピオカでんぷん):半透明で、強い弾力が出る。タピオカや芋圓(タロイモ団子)など、もちもちした食感を出したいときに。
  • 小麦淀粉:澄粉とも呼ぶ。グルテンを含まず、透明度が非常に高い。蝦餃の皮や腸粉に使い、勾芡にはあまり使わない。

このほか、広東料理では藕粉(れんこんのでんぷん)や馬蹄粉(くわいのでんぷん)、小麦粉を使うこともある。小麦粉のとろみはややざらっとした食感になり、上海料理には炒った小麦粉でとろみをつけて香ばしさを出す例もある。

家庭での使い分けとしては、炒め物や羹のとろみには片栗粉、下味(上漿)や揚げ衣にはコーンスターチ、とろみを長く保ちたい煮込みや、揚げ衣にごつごつした食感を出したいときにはさつまいもでん粉、と覚えておけば大きく外れない。

粉と水の比率の目安

比率は料理によって変わるが、目安として香港の料理人は、でんぷん小さじ2に水150mlという薄めの配合や、でんぷん大さじ1/2に水大さじ1という濃い水溶きを紹介している。肉汁にもともと粘りがある料理なら、水溶きでんぷんは減らす。

家庭では、次のくらいを基準にすると扱いやすい。

  • 濃い水溶き(後から少しずつ足す用):片栗粉大さじ1に水大さじ2。
  • 炒め物の碗汁(肉200gの炒め物1皿分):生抽大さじ1、砂糖小さじ2、料酒小さじ2、片栗粉小さじ1、水またはスープ大さじ3。魚香味なら、ここに香醋大さじ1を加える。
  • スープの米湯芡(スープ1Lに対して):片栗粉大さじ1〜1と1/2を水大さじ3で溶く。

入れるタイミングと火加減

  • 味と色を先に決める。でんぷんで汁が濃くなってからでは、調味料が材料に入っていかない。後から塩や醤油を足しても、表面に残るだけになる。
  • 汁が沸いているところに入れる。汁がぬるいと、でんぷんが均一に糊化せず、粉っぽい味が残る。
  • 入れる瞬間は手早く混ぜる。香港の料理人のなかには、ダマを防ぐために勾芡のときだけ火を弱める、あるいはいったん火を止めて混ぜてから再び火をつける、という人もいる。混ぜ終えたら火を戻し、汁が透きとおるまでしっかり煮立てる。
  • とろみがついたら長く煮続けない。沸騰させすぎると、とろみが壊れてかえって薄く戻ってしまい、作り直すしかなくなる。
  • 油の量に注意する。鍋に油が多すぎると芡がうまくからまないので、余分な油は先に除く。逆につやが足りなければ、とろみがついた後に油を少量回し入れる(明油)。勢いよく入れすぎると油と芡が分離する。

よくある失敗

  • ダマになる:でんぷんが器の底に沈んだまま入れた、または汁が煮立っていない。水溶きは入れる直前に必ず混ぜ直す。一度に全部入れず、2〜3回に分けて様子を見ながら加える。
  • どろどろに固まる:でんぷんが多すぎる。汁の量が少ないときは、鍋肌からスープや水を少し足してから勾芡する。
  • しばらくすると水っぽくなる:火が足りずに糊化が不十分だったか、逆に煮すぎてとろみが壊れた。片栗粉は冷めるとゆるみやすい性質もある。
  • 粉っぽい味がする:汁が沸いていないところに入れた、または入れた後に十分加熱していない。
  • 味がぼやける:とろみをつけてから調味した。味は必ず先に決める。

家庭で再現するコツ

  • 合わせ調味料は、炒め始める前に作っておく。中華お玉の背でかき混ぜてから一気に回し入れると、ダマになりにくい。
  • 麻婆豆腐のような豆腐料理は、水溶きでんぷんを3回に分け、そのつど鍋をゆすってなじませる。1回目はごく少量、汁がほんのり濃くなったら2回目、最後にしっかりとろみをつける。
  • 羹やサンラータンのような汁物は、とろみをつけてから溶き卵を流すと、卵が沈まずにふわりと浮く。
  • 揚げた材料に甘酢あんをからめる料理は、あんを先に鍋で作り、とろみが透きとおってから揚げた材料を入れて、数回あおってすぐ皿に移す。

この記事で紹介した技法を使うレシピ

出典

本文は上記の情報源を参考に、独自に再構成・翻訳したものです。