中華料理の教科書

中華の香辛料八角・花椒・桂皮・草果・五香粉・十三香の使い分け

木のまな板に八角、花椒、桂皮、香葉、草果、丁香、陳皮、小茴香、粉末を並べた香辛料の写真風の画像
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中国のレシピの材料欄には、日本の料理ではまず見かけない名前がずらりと並ぶことがある。八角2個、桂皮1片、香葉3枚、草果1個、丁香2粒、小茴香ひとつまみ。滷肉飯や紅焼牛肉麺、滷味のような煮込みになると、香辛料だけで10種類近くになることも珍しくない。

これを全部そろえるのは大変だが、一つひとつの役割がわかれば、必要なものはぐっと絞り込める。中国の香辛料は、肉や魚のくさみを消し、煮汁に奥行きのある香りをつけるのがおもな仕事だ。八角は甘くて強い香り、桂皮は温かみのある甘い香り、花椒はしびれと柑橘のような香り。草果や丁香は、少量で全体を引き締める脇役だ。

一方で、香辛料は入れすぎると、苦みや薬くささが出る。中国の料理記事でも「多くの種類を、少しずつ」が基本とされている。ミックススパイスの五香粉や十三香も、配合を知っておくと、どの料理にどちらを使えばいいかがわかる。

ここから先では、中華の主な香辛料の特徴と使い方、五香粉・十三香・滷包の違い、くさみ消しと香りづけのコツを解説する。

中華の香辛料は「煮込みの香り」と「痺れ・辛さ」に分かれる

中国料理の香辛料は、大きく二つの役割で考えるとわかりやすい。

  • 煮込み・滷の香り:八角・桂皮・香葉・草果・丁香・小茴香・陳皮・白豆蔻・山奈・甘草など。紅焼・滷・醤のような長時間の煮込みで、肉のくさみを消し、甘く温かい香りをつける。
  • 痺れと辛さ:花椒・青花椒・唐辛子など。四川・重慶の麻辣の味をつくる。

前者は、乾燥した実・皮・葉・根などで、中国では「香料」と総称される。漢方の生薬と同じものも多く、市場では乾物屋や薬屋に並んでいる。

八角・桂皮・香葉:煮込みの基本三点

  • 八角(バージャオ):八つの角を持つ星形の実で、大茴香・大料とも呼ぶ。甘く強い香りがあり、豚の醤油煮込み(紅焼肉)や滷水には、ほぼ必ず入る。1kgの肉に対して2〜3個が目安で、それ以上入れると香りが勝ちすぎる。
  • 桂皮(グイピー):クスノキ科の樹皮を乾燥させたもの。料理用の桂皮は、薬用の肉桂(シナモンの一種、カシア)とは別の近縁種の樹皮であることが多く、薄く、油分が少ないとされる。洋菓子に使うセイロンシナモンよりも香りが強く、渋みがある。煮込みには長さ5cmほどを1〜2片入れる。
  • 香葉(シャンイエ):月桂樹の葉、つまりローリエだ。滷水や醤油煮込み、複製醤油に使う。入れすぎると苦みが出るので、肉1kgに2〜3枚までにする。

この三つと、生姜・ねぎ・酒があれば、たいていの醤油煮込みは本場らしい香りになる。

花椒と青花椒:しびれの正体

  • 花椒(ホアジャオ):ミカン科の実の皮を乾燥させたもの。赤い花椒は唐代から献上品とされてきたといわれ、油分が多く、しびれと香りが長く続く。麻婆豆腐・水煮牛肉・重慶火鍋など、四川の麻辣料理の要だ。日本の山椒と同じミカン科サンショウ属だが、香りの方向がまったく違うので、代用には向かない。
  • 青花椒(チンホアジャオ):緑色のうちに収穫した花椒。赤い花椒より香りが青く鋭く、清涼感のあるしびれが特徴だ。魚料理や鶏料理、藤椒鶏のような冷菜によく使う。四川の峨眉山周辺では、近縁の「藤椒」も使われ、その香りを移した藤椒油が人気だ。

使い方のコツは、焦がさないことだ。

  • 粒のまま使う場合:冷たい油に入れてから弱火にかけ、香りが立ったら引き上げる(または残す)。熱した油に入れると、一瞬で黒く焦げて苦くなる。
  • 粉にする場合:粒を弱火で乾煎りして、香りが立ったらすり鉢ですり、仕上げに振る。市販の花椒粉は香りが飛びやすいので、少量ずつ買う。
  • 油に香りを移した花椒油は、冷菜や麺のたれに数滴たらすだけで使えて便利だ。

草果・丁香・小茴香:少量で効く脇役

  • 草果(ツァオグオ):ショウガ科の大きな実を乾燥させたもの。樟脳のような強い香りがあり、羊肉や牛肉のくさみ消しに効く。使う前に包丁の背でたたいて割り、香りを出しやすくする。中の種は長く煮ると苦みが出やすいので、取り除いて殻だけを使うこともある。
  • 丁香(ディンシャン):クローブ。香りが非常に強く、入れすぎると鍋全体が苦く、薬くさくなる。肉1kgに1〜2粒で十分だ。
  • 小茴香(シャオホイシャン):フェンネルシード(ウイキョウの種)。クミン(孜然)とは別物なので注意したい。甘くさわやかな香りで、八角・桂皮と合わせて煮込みや滷水の香りづけに使う。肉1kgにつき小さじ1/2(約3g)が目安だ。

陳皮・白豆蔻・山奈・甘草:香りに奥行きを足す

  • 陳皮(チェンピー):みかんの皮を乾燥させ、年月をかけて熟成させたもの。広東の新会産が有名だ。煮込みやスープ、湖南の陳皮鶏などに使う。使う前に水に浸してやわらかくし、内側の白いわたを削ると苦みが減る。
  • 白豆蔻(バイドウコウ):ショウガ科の小さな実で、カルダモンの仲間。さわやかな香りで、滷水の香りを明るくする。
  • 山奈(シャンナイ):沙姜(サージャン)とも呼ぶショウガ科の根茎を乾燥させたもの。独特の清涼感のある香りがあり、魚のくさみ消しや滷水に使う。広東の沙姜鶏では、生の沙姜や沙姜粉を使う。
  • 甘草(ガンツァオ):マメ科の根で、名前のとおり甘みがある。滷水や台湾の滷肉に1〜2片入れると、角の取れた甘みが加わる。

五香粉と十三香:ミックススパイスの違い

  • 五香粉(ウーシャンフェン):中国の代表的なミックススパイス。「五」と名がつくが、配合はメーカーによって違い、一般的には八角・桂皮・小茴香・花椒・丁香の五つが基本とされる。下味、揚げ物の衣、焼味(ロースト)、台湾の滷肉や鹹酥鶏の胡椒塩などに使う。市販品の中には、小茴香と桂皮が主体で、八角や丁香の香りが弱いものもある。
  • 十三香(シーサンシャン):調合スパイスで、八角・小茴香・花椒・高良姜・陳皮・黒こしょう・ナツメグ・肉桂・乾姜・甘草・砂仁・丁香・白芷などを合わせる。名前は「13種類」だが、実際の配合数は一致しないこともある。五香粉より香りの種類が多く、肉だんごやぎょうざのあん、炒め物、ザリガニの炒め煮などに使う。中国の料理記事では、香辛料の香りを強くしたくなければ五香粉で代用してよいとしている。

どちらも粉なので、入れすぎると、粉っぽさと苦みが出る。肉300gに小さじ1/4〜1/2から始めるのが無難だ。

滷包:ホールスパイスの袋詰め

滷包(ルーバオ)は、八角・桂皮・甘草・丁香・花椒・陳皮・小茴香などのホールスパイスを、綿やガーゼの袋に詰めたものだ。滷味・滷肉飯・牛肉麺の煮汁に入れ、煮上がったら袋ごと取り出せるので、スパイスの粒が料理に残らない。

自分で作るなら、だしパック用の不織布袋に、次の分量を目安に詰める(肉1kg分)。

  • 八角2個、桂皮5cmを1片、香葉2枚、草果1個(たたいて割る)、丁香1粒、小茴香小さじ1/2、花椒20粒、陳皮1片、甘草2片

日本で手に入るもので代用するには

すべての香辛料をそろえなくても、日本のスーパーで手に入るもので、かなり近い香りが作れる。

  • 八角 → 代わりになるものがほとんどないので、一つ買うならまず八角だ。五香粉で代用する場合は、肉500gに小さじ1/4。
  • 桂皮 → シナモンスティックで代用できる。セイロンシナモンは香りが繊細なので、カシア系の太いものが近い。粉のシナモンなら、肉500gに小さじ1/8ほど。
  • 香葉 → 日本で売っているローリエがそのまま使える。
  • 花椒 → 日本の粉山椒は香りの方向が違う。しびれを出したいなら、花椒だけは中華食材店や通販でそろえたい。
  • 小茴香 → フェンネルシード(スパイス売り場にある)がそのまま使える。
  • 陳皮 → みかんの皮を洗って白いわたを取り、天日で1週間ほど干せば、自家製の陳皮になる。熟成香は弱いが、煮込みには十分だ。
  • 草果・白豆蔻・山奈 → 省いても料理は成り立つ。白豆蔻はカルダモンで代用できる。
  • 滷包 → 八角・シナモンスティック・ローリエの三つに、五香粉をひとふり足すと、滷水らしい香りの骨格ができる。

香辛料の使い方のコツ

  • 香りを強く出したいときは、少量の油で弱火で1〜2分炒めてから、煮汁を注ぐ。中国の家庭料理の記事でも、ホールスパイスを軽く水洗いしてから油で炒める方法が紹介されている。丁香など焦げやすいものは最後に入れる。
  • やさしい香りにしたいときは、炒めずに煮汁に直接入れるか、滷包にして煮出す。
  • 香辛料は「多くの種類を、少しずつ」が原則だ。一種類だけをたくさん入れるより、三〜五種類を少しずつ入れたほうが、香りがまとまる。
  • 長時間煮込むと香辛料の苦みが出ることがある。2時間以上煮込む場合は、1時間ほどで香辛料を取り出すと、香りだけが残る。
  • ホールスパイスは、密閉容器に入れて冷暗所で保存する。湿気るとカビが生えやすい。

よくある失敗

  • 煮込みが苦い:丁香・香葉・草果の種の入れすぎか、香辛料を入れたまま長時間煮すぎている。丁香は1〜2粒、香葉は2〜3枚までにする。
  • 薬くさくなった:桂皮や甘草が多すぎる。桂皮は5cmで1〜2片が目安だ。
  • 花椒が黒く焦げた:熱した油に入れている。冷たい油から弱火で温める。
  • 五香粉を入れたら粉っぽくなった:量が多すぎる。粉のスパイスは下味に小さじ1/4程度から使う。

この記事で紹介した調味料を使うレシピ

出典

本文は上記の情報源を参考に、独自に再構成・翻訳したものです。