刀工の基本絲・片・丁・塊・条、中華の切り方の名前と使い分け

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青椒肉絲の「絲」、宮保鶏丁の「丁」、回鍋肉の肉片の「片」。中華料理の名前には、材料をどう切るかを表す漢字がそのまま入っていることが多い。中国の料理書では、この切り方の技術をまとめて「刀工(ダオゴン)」と呼び、火加減と並ぶ基本功(基本の腕前)として扱っている。
刀工の名前は、ただの形の呼び名ではない。細切りにするか角切りにするかで、火の通る速さも、たれのからみ方も、口に入れたときの食感も変わる。だから中国のレシピでは「肉を細切りにする」と書く代わりに「切成絲」と一言で済ませ、それで長さや太さの見当まで伝わるようになっている。
逆に言えば、名前と形の対応がわかれば、中国語のレシピや料理名から、その料理がどんな仕上がりを目指しているかが読めるようになる。たとえば同じ鶏肉でも、「鶏丁」なら1〜2cmの角切りで強火で炒める料理、「鶏塊」ならぶつ切りで煮込むか揚げる料理、と見当がつく。
ここから先では、絲・片・丁・粒・末・茸・塊・条・段・花刀それぞれの目安の寸法と、包丁の動かし方の基本、肉の繊維の向きと切り方の関係を解説する。
刀工は「味」と「火の通り」を決める
中国の調理の解説では、刀工と料理の関係を次のように整理している。材料を小さく切るほど味は濃く入り、食感はやわらかくなる。大きく切るほど味は淡く、歯ごたえが残り、栄養や水分は逃げにくい。また、大きく切った材料ほど、たれやとろみは濃いめにしないと味がのらない。
もう一つの原則が、大きさと厚みをそろえることだ。一皿のなかに太い絲と細い絲が混ざっていると、細いほうが先に火が通り、太いほうは生っぽく残る。切ったものがつながったまま(連刀)になっているのも失敗とされる。さらに、主材料と副材料の形をそろえる「絲には絲、片には片(絲対絲、片対片)」という考え方があり、副材料は主材料よりやや小さく切るのが基本だ。青椒肉絲でピーマンも細切りにするのは、この原則どおりである。
絲(スー):細切り
絲は細長い棒状の切り方で、炒め物にいちばんよく使われる。料理書には太さで呼び分けがあり、ある教本では次の寸法を目安に挙げている。
- 頭粗絲(トウツースー):長さ約10cm、太さ約0.4cm角。肉絲の炒め物の標準的な太さ。
- 細絲(シースー):長さ約10cm、太さ約0.2cm角。じゃがいもの細切り炒めや、薬味の生姜などに。
- 銀針絲(インジェンスー):太さ約0.1cm角。針のように細い絲で、淮揚料理の大煮干絲のような包丁仕事を見せる料理で使われる。
絲を切るときは、まず材料を薄い片に切り、それを少しずつずらして重ねてから端から細く切る。片の厚みがそのまま絲の太さになるので、最初の片をそろえることがいちばん大事だ。料理名では、肉絲(豚肉の細切り)、土豆絲(じゃがいもの細切り)、雞絲(鶏肉の細切り)のように使われる。
片(ピエン):薄切り
片は平たい薄切りだ。形と大きさで細かく名前が分かれている。
- 柳葉片(リウイエピエン):柳の葉のような細長い形。長さ約6cm、厚さ約0.3cm。
- 骨牌片(グーパイピエン):麻雀牌のような長方形。長さ約6cm、幅約2cm、厚さ約0.4cm。
- 菱形片(リンシンピエン):ひし形。長軸約5cm、短軸約2.5cm、厚さ約0.2cm。
- 指甲片(ジージアピエン):爪ほどの小さな正方形。一辺約1.2cm、厚さ約0.1cm。生姜やにんにくの薄切りに。
- 灯影片(ドンインピエン):光が透けるほど薄い大きな片。長さ約8cm、幅約4cm、厚さ約0.1cm。
包丁を立てて上から切る「切」のほかに、包丁を寝かせて横から削ぐ「片(ピエン)」という刀法があり、鶏むね肉や魚の切り身はこちらで薄く削ぐことが多い。回鍋肉の肉片、水煮牛肉の牛肉片、豆腐干を薄く切って豚肉と炒める香干炒肉など、片は炒め物にも煮物にも使われる。
丁(ディン)・粒(リー)・末(モー)・茸(ロン):角切りから細かいものへ
- 丁:さいの目切り。大丁は約2cm角、小丁は約1.2cm角が目安。ある料理書では、まず1cm角の棒に切ってから同じ幅で切ると、火が中まで通りやすいとしている。宮保鶏丁・辣子鶏丁・醤爆鶏丁の「鶏丁」がこれだ。
- 粒:丁より小さな粒状。大豆大(黄豆粒)、緑豆大(緑豆粒)、米粒大(米粒)と、たとえる豆や米の大きさで呼び分ける。
- 末:みじん切り。米粒か菜の花の種くらいの大きさで、肉末(ひき肉)、姜末・蒜末(生姜・にんにくのみじん切り)のように使う。
- 茸(蓉とも書く):包丁の背でたたいたり、刃で細かくたたいたりして作るペースト状のもの。鶏むね肉で作る雞茸(鶏のすり身)や、えびのすり身など。筋や膜、皮を先に取り除いておくのが前提だ。
塊状の肉を細かくする「剁(ドゥオ)」には、包丁一本でたたく方法と、包丁を二本持って交互にたたく方法があり、末や茸は後者で作るのが伝統的なやり方だ。
塊(クアイ)・条(ティアオ)・段(ドゥアン):大きめに切る
- 塊:ぶつ切り・角切り。骨牌塊(長方形、約4×2.5×2cm)、菱形塊、滾刀塊(材料を転がしながら斜めに切る乱切り、長さ約4cm)などがある。排骨塊(骨付きのスペアリブのぶつ切り)は煮込みや揚げ物に向く。
- 条:拍子木切り。約1.2cm角・長さ約6cmの大一字条や、箸ほどの太さの筷子条(約0.6cm角・長さ約4cm)などがある。
- 段:ねぎや唐辛子などを一定の長さで切ったもの。長ねぎなら長めの段で約8cm、朝天椒のような乾燥唐辛子なら2〜3cmが目安だ。東北の溜肉段のように、肉を短い棒状に切ったものも「段」と呼ぶ。
花刀(ホアダオ):切り目で火を通し、形を見せる
花刀は、材料の表面に深く、しかし切り離さない切り目を入れる技法で、刀法としては「剞(ジー)」と呼ぶ。切り目の深さは材料の厚みの2/3前後が基本とされる。
- 十字花刀:まっすぐの切り目を縦横に交差させる格子。厚さ約0.5cmの材料に、0.5cm間隔で深さ2/3まで入れる。
- 麦穂花刀:包丁を斜めに寝かせて切り目を入れ、向きを変えて交差させる。加熱すると麦の穂のように反り返る。豚マメ(腰子)やいかの爆炒で定番の切り方だ。
- 荔枝形:斜めの切り目を交差させ、長方形に切り分けると、加熱で丸まってライチの皮のような見た目になる。
- 松鼠桂魚の飾り切りのように、一尾の魚に深い切り目を入れて揚げ、形そのものを料理の見せ場にする例もある。
花刀には見た目だけでなく、厚い材料でも火が中まで一瞬で通る、表面積が増えてたれがよくからむ、という実利がある。
包丁の動かし方の基本
中国の料理書では、刀法を「切・片・剁・劈・拍・剞」の六つに大別する。
- 切:包丁を立てて切る。真上から押し切る直切は脆い野菜(じゃがいも・白菜)に、前へ押す推切はほぐれやすいもの(叉焼・ゆで卵)に、手前に引く拉切は弾力のあるもの(生肉・昆布)に向く。
- 片:包丁を寝かせて削ぐ。肉や魚を薄くするときの基本。
- 剁:たたき刻む。ひき肉や骨付き肉に。
- 劈:骨ごと断ち割る。スペアリブや豚足などに。
- 拍:刃の腹でたたいてつぶす。にんにくや生姜、拍黄瓜のきゅうりなど。
- 剞:前述の花刀。
材料を押さえる左手は、指先を丸めて中指の第一関節を刀身の腹に当て、その関節を目印に少しずつ後ろへ下げていく。こうすると刃が指先に当たらず、厚みも一定にそろう。中華包丁は刃の面が広いので、関節を当てやすく、切ったものを刃の腹ですくってそのまま鍋へ運べる。
肉の繊維の向きと切り方
中国には「横切牛羊、竪切猪、斜切鶏、順切魚(牛と羊は横に、豚は縦に、鶏は斜めに、魚は流れに沿って)」という言い回しがある(地方や人によって言い方に違いがある)。
- 牛・羊:赤身が多く繊維が太いので、繊維を断つように直角に切る。繊維に沿って切ると、煮ても噛み切れない。
- 豚:繊維に沿って切る。断ってしまうと、炒めたときに肉がぼろぼろに崩れやすい。
- 鶏:肉がやわらかいので向きにはあまりこだわらず、斜めに切ると見栄えがよい。
- 魚:骨の流れに沿って切ると、形がきれいに保て、骨も外しやすい。
別の料理書は、肉のやわらかさで判断せよとしている。筋が少なくやわらかい肉は繊維に沿って、筋が多くかたい肉は繊維を断って、その中間の肉は斜めに切る、という考え方だ。どちらも「かたい肉ほど繊維を断つ」という点では一致している。
家庭で再現するコツ
- 肉の絲や片は、塊肉を冷凍庫に30〜40分入れ、表面がかたくなりかけたところで切ると、0.3〜0.4cmの厚みで均一に切りやすい。
- 絲は「片→ずらして重ねる→端から切る」の三段階で。最初の片の厚みをそろえることに集中する。
- 角切り(丁)は、炒め物なら1〜1.5cm角が家庭のコンロでも火が通りやすい。2cmを超えると、外が焦げても中が生、ということが起きやすい。
- 花刀は、材料の下に菜箸を2本平行に置いて切ると、箸に包丁が当たって止まるので、切り離す失敗が減る。
- 包丁の切れ味が落ちていると、トマトや肉の表面がつぶれて水分が出る。研いだ包丁と、刃当たりのやわらかい中華まな板の組み合わせがいちばん効く。
この記事で紹介した技法を使うレシピ
- 青椒肉絲:豚肉もピーマンも細切りにそろえる、主材料と副材料の形を合わせる「絲対絲」の一皿。
- 醋溜土豆絲(醋溜土豆丝、酢炒めじゃがいもの細切り):じゃがいもをなるべく細い千切りにし、水にさらして澱粉を抜いてから強火で炒める。
- 回鍋肉:ゆでた豚バラ肉を2〜3mm厚さの片に切り、脂が透き通って軽く丸まるまで炒める。
- 宮保鶏丁(ゴンバオジーディン):鶏もも肉を1.5〜2cm角の丁に切り、落花生と合わせて強火で手早く炒める。
- 獅子頭(蟹粉獅子頭):豚肉をフードプロセッサーを使わず包丁で粗みじんに刻み、大きな肉団子に仕立てる。
- 爆炒腰花(豚マメの強火炒め):豚マメに斜めと垂直の切り込みを入れる麦穂花刀で、油に通すと穂の形に開く。
- 松鼠桂魚(ソンシューグイユー):骨を抜いて開いた魚に格子状の花刀を入れて揚げ、リスの形に見立てる包丁仕事の見せ場。
出典
本文は上記の情報源を参考に、独自に再構成・翻訳したものです。