中華料理の教科書

火候(火加減)とは家庭のコンロで中華の火を再現する方法

炎の上がるコンロの中華鍋で青菜を炒め、鍋べらを添えた写真風の画像
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中国の料理書やレシピを読んでいると、何度も出てくる言葉がある。「火候(フオホウ)」だ。日本語にすれば「火加減」だが、中国料理ではもっと広い意味で使われる。火の強さだけでなく、加熱する時間、油の温度、材料をいつ鍋に入れ、いつ引き上げるか。そのすべてをひっくるめて火候と呼び、料理の出来を左右するいちばん大事な勘所とされてきた。

中国のレシピに「旺火で炒める」「小火で煮込む」「五成熱の油に入れる」と書かれていても、日本の家庭のコンロでそのとおりにやると、思ったような仕上がりにならないことがある。理由の一つは、中国の店の業務用コンロと家庭用コンロの火力の差だ。中国でも、家庭用ガスコンロの火力には上限があり、店の炒め物用のコンロとは比べものにならない。それでも中国の家庭の料理人たちは、鍋の予熱、油の量、材料を入れる量を工夫して、家庭の火で中華の味を出している。

鍋気(鑊気)と呼ばれる、強火の炒め物特有の香ばしさも、火候の延長にある。焦げる一歩手前の香りをどう引き出すか。それは才能ではなく、仕組みを知って練習すれば身につく技術だ。

ここから先では、火候の基本となる火の四段階、油温の「成」、香りを立てる熗鍋、鍋気の正体、そして家庭のコンロで中華の火を再現する具体的な方法を解説する。

火候とは何か

火候は、中国料理の理論の中心にある考え方だ。同じ材料、同じ調味料を使っても、火の強さと時間が違えば、まったく別の料理になる。たとえば豚バラ肉は、強火で短時間炒めれば香ばしい回鍋肉になり、弱火で長時間煮れば紅焼肉になる。

中国の料理書では、火候を考えるとき、次の三つを組み合わせて判断する。

  • 火力:炎の強さ。旺火・中火・小火・微火の四段階で表すことが多い。
  • 時間:加熱する長さ。炒め物は数十秒〜数分、煮込みは数時間と、技法によって大きく違う。
  • 材料の状態:大きさ、厚み、硬さ、水分量。大きく硬い材料ほど、弱い火で長く加熱する。

一つの料理のなかで火力を切り替えるのも、中国料理の特徴だ。たとえば紅焼肉なら、強火で煮立てて色と味を決め、小火でやわらかくなるまで煮て、最後にもう一度強火にして汁を煮詰める。レシピに書かれた火力の指示が途中で変わるのは、このためである。

火の四段階

中国の料理解説では、火力をおおよそ次の四段階に分けて、炎の色や様子で見分ける。

  • 旺火(ワンフオ):大火・急火とも呼ぶ。最も強い火で、炎は青白く、勢いがある。生炒・滑炒・爆炒など、短時間で仕上げる炒め物に使う。
  • 中火(ジョンフオ):旺火と小火の中間。炎は青に赤みが混じり、明るい。煎(少量の油で焼く)や煮る料理に使う。目玉焼きを焼くような火加減だ。
  • 小火(シャオフオ):文火・温火とも呼ぶ。炎は青に橙が混じって暗めで、高さが一定しない。紅焼肉のように、時間をかけて煮る料理に使う。
  • 微火(ウェイフオ):最も弱い火で、炎はかすかに青い。鶏のスープやスペアリブのスープなど、長時間の燉・燜・煨に使う。

昔から使われる言い方に、「武火(強い火)」と「文火(穏やかな火)」がある。資料によって、中火を武火と呼んだり、小火を文火と呼んだりと、呼び方の対応には揺れがあるので、中国語のレシピでは前後の手順も合わせて読むとよい。

油温の「成」と熗鍋

炒め物や揚げ物では、火力と並んで油の温度が重要になる。中国のレシピでは、油温を「三成熱」「六成熱」のように「成」で表す。一成はおよそ30℃が目安で、六成熱なら160〜180℃前後、八成熱なら油からはっきり煙が上がる200℃前後だ(詳しくは教科書04「炸・煎・烹・拔絲の違い」で解説した)。

炒め物の最初に、油で長ねぎ・生姜・にんにくなどの香味野菜を炒めて香りを立たせる工程を、熗鍋(チアングオ)または爆鍋(バオグオ)と呼ぶ。熗鍋で大事なのは、油の温度を上げすぎないことだ。中国の料理人の解説では、熗鍋の油温は「二〜三成熱」がよいとされる。低すぎると香りが出ず、高すぎると生姜やにんにくが黒く焦げて、炭化して香りが消えてしまう。生姜は細かいみじん切りにすると、低めの温度でも香りが出やすい。いったん油を熱してから火から下ろし、少し温度を落としてから香味野菜を入れるやり方もある。

鍋気(鑊気)の正体

広東の料理人が大切にする「鑊気(ウォクヘイ)」、北方でいう「鍋気(グオチー)」は、強火で炒めた料理だけに出る、香ばしく焦げた香りのことだ。中国の料理解説では、その正体を次のように説明している。

  • 鉄の鍋で材料を強火で炒めると、材料の表面温度が200℃を超える。表面の水分が一気に沸騰して蒸発し、油が酸化し、メイラード反応やカラメル化反応が起きる。これが淡い焦げの香りになる。
  • 油・たれ・材料の水分が高温で気化し、丸い鍋のなかで気流になって材料にまとわりつく。鍋が厚く、熱量が大きく、カーブが深いほど、この気流は強くなるとされる。
  • 鉄の鍋でなければ出にくく、使い込んだ鍋ほど香りが出やすい。

料理人たちが挙げる鍋気の出し方は、驚くほど基本的なことばかりだ。鍋を強火で煙が立つまで熱してから油を入れる。一度にたくさんの材料を入れない。油は多すぎず少なすぎず、一皿の炒め物でピーナッツ油30g以内が目安。材料をむやみにかき回さず、香りと焦げの境目で鍋を返す。そして、できたらすぐに食卓へ出す。鍋気は温度が下がると消えてしまうからだ。

家庭のコンロの火力と、その対策

中国の家庭用ガスコンロの火力(熱負荷)は、おおむね3.5〜5.2kWの範囲にある。5.2kWを超えるものは業務用に分類され、一般の家庭では使えない。店の炒め物用コンロは「猛火灶」と呼ばれる業務用の強力なもので、家庭用とは火力がまるで違う。日本の家庭用コンロも、業務用の中華レンジに比べればずっと控えめな火力だ。

では、家庭の火でどうやって中華の炒め物を作るのか。ポイントは「火が弱いなら、鍋に蓄える熱と、一度に入れる量で補う」ことだ。

  • 鍋を十分に予熱する。厚手の鉄の中華鍋を、煙がうっすら立つまで強火で熱してから油を入れる。鉄は熱をため込むので、材料を入れたときの温度の落ち込みが小さい。フッ素樹脂加工のフライパンは空焼きすると傷むので、この方法には向かない。
  • 一度に入れる量を減らす。家庭のコンロでは、炒め物は1〜2人前ずつが限度と考える。4人分なら、2回に分けて炒めて最後に合わせるほうが、結果的に早く、おいしい。
  • 油温を高めにして、熱量を補う。中国の料理人が家庭のコンロでキャベツを強火炒めにする方法として紹介しているのは、厚手の鉄鍋を「大量の煙が出る寸前」まで熱し、ラードを入れて七成熱まで上げてから、キャベツを一気に入れるやり方だ。一般的な五成熱で炒めると、色は白く仕上がっても、しんなりして水っぽくなるという。
  • 塩は最後に入れる。同じ解説では、塩は火から下ろす10秒ほど前に加えて混ぜ、野菜から水が出るのを防ぐとしている。
  • 野菜は下ゆでしておく。多くの野菜は、さっと下ゆでしてから炒めると、家庭の火でも短時間で火が通る。ただし、キャベツは炒めると水が出やすいので下ゆでせず、高温の油で一気に炒める。
  • 合わせ調味料は先に作る。家庭の火力では、調味料を一つずつ加えているうちに鍋の温度が下がる。生抽・酢・砂糖・水溶き片栗粉などは、炒め始める前に器で合わせておき、最後に一度で回し入れる。
  • 酒は鍋肌から。紹興酒などを材料に直接かけず、熱い鍋肌に回し入れると、一瞬で蒸発して香りが立ち、鍋の温度も下がりにくい。
  • 手を止めすぎず、動かしすぎない。材料を入れたら、まず10秒ほど動かさずに表面を焼きつけ、それから鍋べらで大きく返す。せわしなくかき混ぜると、かえって温度が下がる。

焦げと香りの境界

火候の難しさは、香ばしさと焦げが紙一重だという点にある。熗鍋のにんにくは、薄く色づいたところが香りのピークで、そこを過ぎると一気に苦くなる。四川の糊辣(フーラー)は、乾燥唐辛子と花椒をあえて焦げる手前まで油で炒め、その香ばしさを料理に移す技法だが、黒く焦がしてしまえば失敗だ。

見極めのコツは、色よりも音と香りに注意を向けることだ。油に香味野菜を入れたときの音が、「ジュワッ」という激しい音から、「チリチリ」という細かい音に変わり、香りがふっと立ったところが引き際である。迷ったら、少し早めに次の材料を入れてしまえばよい。焦げは取り返せないが、香りが足りないのは次に生かせる。

よくある失敗

  • 炒め物が水っぽい:鍋の予熱不足か、材料の入れすぎ。鍋をしっかり熱し、量を半分にして2回に分ける。
  • 肉が鍋にくっつく:鍋が十分に熱くないうちに油と肉を入れている。鍋を先に熱し、油を入れて全体になじませてから肉を入れる。
  • にんにくが苦い:熗鍋の油温が高すぎる。油を熱したら火を弱めるか、いったん火から下ろしてから香味野菜を入れる。
  • 煮込みの肉が硬い:煮込みの火が強すぎる。紅焼や燉は、表面が静かに揺れる程度の小火〜微火で煮る。
  • 煙が出すぎて怖い:換気扇を最強にし、油は煙が立つ直前で材料を入れる。九成熱以上は発火の危険があるので、家庭では使わない。

この記事で紹介した技法を使うレシピ

出典

本文は上記の情報源を参考に、独自に再構成・翻訳したものです。