江蘇料理・苏菜盐水鸭
塩水鴨(盐水鸭)レシピ本場南京の配合を徹底解説

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南京の人にとって、塩水鴨は「特別な日のごちそう」ではない。むしろ逆で、これがない食卓のほうが落ち着かない。皮は白く艶やかで、身は驚くほどしっとりと柔らかい。噛むとまず塩気とスパイスの香りが立ち、そのあとにじわりと鴨本来のうま味が追いかけてくる。南京の街を歩けば、夫子廟の周りだけでも何十軒もの専門店が軒を連ね、店先には丸ごとゆでた鴨がずらりと吊るされている。
その歴史は驚くほど古い。『陳書』には、南北朝時代の陳の武帝が兵士をねぎらうために「荷葉裹鴨」という料理を作らせたという記述があり、これが塩水鴨の原型と見る向きもある。明代には製法がほぼ完成の域に達し、「古書院、琉璃塔、玄色緞子、塩水鴨」という当時の南京を代表する物産を並べた俗謡が生まれるほど、街の象徴的な名物になっていた。
面白いのは、農暦8月ごろ、金木犀(桂花)が咲く季節に仕込まれたものだけが特別に「桂花鴨」と呼ばれることだ。この時期は湖や川のほとりで放し飼いにされた鴨が桂花の香る空気の中で育ち、水面に散った花びらを餌として食べることもあるため、肉にほのかな花の香りが移るとされる。長江下流域という水郷ならではの気候と水利が、良質な鴨を育てる土壌になってきた。
似た名前の「板鴨(咸板鴨)」との違いも押さえておきたい。板鴨は塩漬けにしたのち天日で乾燥させた生の保存食で、明代にはすでに「金陵第一の名産」とされていたが、旅人が持ち帰るうちに硬く塩辛い印象が広まり、次第に敬遠されるようになった。一方の塩水鴨は塩漬けのあとに卤水(香辛料を溶かしたゆで汁)でしっとりと煮上げる熟成品で、現在の南京では板鴨に取って代わって主流の存在になっている。
ここから先は、中国語の複数レシピを比較して割り出した、家庭で作れる本場の配合と手順を公開する。
本場式の配合
材料(2人分・鴨もも肉2本分)
下ごしらえ
- 鴨もも肉(骨つき)※丸鴨1羽で作る場合は約1.2kgを目安に分量を2〜3倍にする400g(2本)
塩漬け用(炒め塩)
煮汁(卤水)
作り方
鴨の下処理。鴨もも肉を流水で洗い、血水をキッチンペーパーで丁寧にふき取る。皮に残った産毛があれば火であぶって取り除く。
炒め塩を作る。フライパンに塩30g・花椒3g・八角1個を入れ、弱火で3分ほど乾煎りする。塩がうっすら黄色みを帯び、香辛料の香りが立ってきたら火を止めて冷ます。
塩漬けする。冷ました炒め塩を鴨肉の表裏、骨の周りまでまんべんなくすり込む。ラップで包むか保存袋に入れ、冷蔵庫で12〜24時間漬け込む。出てきた水分は途中で一度捨てるとよい。
塩を洗い流す。漬け込んだ鴨肉を取り出し、表面についた花椒や塩の粒を流水で軽く洗い流す。
卤水を仕込む。鍋に水1000ml・塩15g・生姜10g・長ねぎ・八角2個・花椒3gを入れて沸かし、中火で10分煮て香りを十分に引き出したら火を止めて完全に冷ます。
煮る。冷ました卤水に鴨肉を入れて火にかけ、沸騰直前の状態を保ちながら弱めの中火で30〜35分、ふたをして静かに煮る。沸騰させすぎると身が締まって硬くなるので、表面がふつふつする程度の火加減を保つのがコツ。
蒸らす。火を止めたら蓋をしたまま20分蒸らす。余熱でじっくり火を通すことで、しっとりとした食感に仕上がる。
冷やして仕上げる。粗熱が取れたら鴨肉を煮汁ごと、または取り出してラップに包み、冷蔵庫で2時間以上冷やす。冷めてから切り分けると、皮が縮まず断面がきれいに出る。骨に沿って包丁を入れ、食べやすい厚さのそぎ切りにして盛り付ける。
本場と日本の違い
- 「焼く」でも「揚げる」でもなく「煮る」料理。 日本語の「鴨」から連想される照り焼きやローストとは対照的に、塩水鴨は最後まで水分の多い状態で仕上げる。皮はパリッとさせず、むしろしっとりさせるのが正解。
- 必ず冷ましてから切る。 熱いうちに切ると肉汁とともに水分が流れ出し、パサついた食感になる。本場では粗熱を取り、さらに冷蔵してから切り分けるのが常識。
- 必ず「二段仕込み」。 塩漬け(腌)と、卤水での加熱(卤煮)という二つの工程を分けて行う点が、ゆで鴨や照り焼きとの大きな違い。塩漬けを省略すると、味が表面だけで終わってしまい、骨際まで塩気が入らない。
- 沸騰させきらない火加減が生命線。 ぐらぐら沸かして煮ると身が締まって硬くなるため、本場のレシピはほぼ例外なく「小火」「中小火」を指定する。
- 「桂花鴨」は季節限定の呼び名。 農暦8月に仕込まれたものだけを指す言葉で、レシピ自体が特別というより、季節と香りにまつわる愛称である。
参考ページ(写真)
下厨房の「南京咸水鸭」レシピページでは、塩漬け・卤水作り・煮込みから盛り付けまでの手順が写真つきで紹介されています。 https://m.xiachufang.com/recipe/106540575/
代用可能な食材
- 鴨もも肉(骨つき)が手に入らない場合→鴨むね肉400g、または丸鶏のもも肉400g(風味は変わるが同じ製法で作れる)
- 花椒→粉山椒小さじ1/2で代用可(香りはやや弱まる)
- 卤水を毎回作るのが手間な場合→市販の卤水で代用し、生姜・長ねぎ・八角を追加して香りを補う
保存・アレンジのコツ
- でき上がった塩水鴨は、煮汁に浸けたまま冷蔵で3〜4日保存できる。食べる直前に薄切りにすると乾燥を防げる。
- 骨と余った煮汁は捨てずに、青菜や豆腐を入れて簡単な鴨スープにするとむだがない。
- 南京では夫子廟周辺の専門店のように、丸鴨のまま卤水で煮て店頭で切り分けて売るスタイルが定番。家庭ではもも肉や手羽で作るコンパクト版でも十分に本場の味に近づく。
出典
- 中文維基百科「盐水鸭」
- 百度百科「南京盐水鸭」
- 搜狐「江苏南京盐水鸭:肉带桂花香,金陵一绝!」
- 南京市地方志工作办公室「南京记忆|金陵风物:咸板鸭与咸鸭肫」
- 下厨房「南京盐水鸭(正宗做法)」レシピ
- 下厨房「金陵盐水鸭/南京咸水鸭(家庭版一次成功)」レシピ
本文は上記の情報源を参考に、独自に再構成・翻訳したものです。