江西料理・赣菜藜蒿炒腊肉

藜蒿炒腊肉(リーハオチャオラーロウ)レシピ本場江西南昌の配合を徹底解説

皿に盛った藜蒿の緑の茎と薄切りの腊肉、赤唐辛子の輪切りを炒め合わせた藜蒿炒腊肉のイラスト
地域
贛菜(江西・南昌)
分量
2人分
公開

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「鄱陽湖の草は、南昌人の食卓の宝」——江西省南昌には、湖畔に自生する一本の野草をこう讃える民間の言い伝えがある。その草の名は藜蒿(リーハオ)。キク科ヨモギ属の水辺の多年草で、食べるのは葉でも根でもなく、春先にすっと立ち上がる若い茎だけだ。しかも旬は清明(4月上旬)前後のごく短い期間に限られる。

この草を主役に据えた炒め物には、明の建国者・朱元璋にまつわる伝承が残っている。元末、朱元璋は鄱陽湖で陳友諒と天下を争い、康山の草洲で半月にわたって足止めされた。船に積んだ野菜は尽き、兵の士気も落ちる。そのとき岸辺で見つかったのが、青々と茂る名もなき水草だった。兵たちは「その葉を去り、その茎を択び」、軍に最後に残っていた腊肉(塩漬けにして干した豚バラ肉)の皮とともに炒めた。これを口にした朱元璋は食欲を取り戻し、軍は勢いを盛り返したという。のちに帝位についた彼が、この草に「藜蒿」の名を与えた——南昌でもっともよく語られる由来である。

もっとも、より現実的な説明として「鄱陽湖沿岸の漁民や農民が、春に摘んだ藜蒿と自家製の腊肉を合わせたのが始まり」とする説も並行して伝わる。いずれにせよこの一皿は、明清の時代を通じて贛菜(江西料理)を代表する存在へと育ち、現在は「十大贛菜」の一つに数えられる。2008年の北京五輪では「奥運菜(五輪メニュー)」に選定され、鄱陽湖の草の香りが全国に知られるきっかけにもなった。

贛菜は、辛さとうま味を軸に、腊味(塩漬け・燻製の保存肉)を巧みに使う系統だ。藜蒿炒腊肉はその性格が凝縮された一皿で、燻した豚の脂の濃厚さを、水辺の草の清らかな香りと歯ざわりが受け止める。ここから先は、中国語の複数レシピを比較して割り出した、家庭で作れる本場の配合と手順を公開する。

本場式の配合

材料(2人分)

主材料

  • 腊肉塩漬けにして干した/燻製にした豚バラ肉120g
  • 藜蒿蒌蒿・芦蒿。葉と硬い根元を落とした正味250g

香味野菜

  • にんにく2片・みじん切り10g
  • 生姜みじん切り5g
  • 小米辣(赤い小唐辛子)正味6g・小口切り3本

調味料

  • 黄酒または日本酒10ml(小さじ2)
  • 生抽8ml(小さじ1と1/2)
  • 砂糖2g(小さじ2/3)
  • 熱湯15ml(大さじ1)
  • 食用油10ml(小さじ2)

下処理用

  • 腊肉の塩抜き・下ゆで用の水塩抜きに500ml、下ゆでに500ml1000ml

作り方

  1. 腊肉120gを塊のまま、水500mlに30分浸けて表面の塩を抜く。

  2. 鍋に新しい水500mlと1の腊肉を入れて強火にかけ、沸騰したら弱めの中火にして8分ゆでる。取り出して粗熱を取り、厚さ2mmの薄切りにする。脂身の多い部分と赤身の部分は分けておく。

  3. 藜蒿は葉をすべて摘み取り、下の硬い根元を折って落とす。中央の柔らかい茎だけを4cm長さに切り、洗ってからペーパータオルで水気を完全に拭き取る。水気が残ると仕上がりが水っぽくなり、歯ざわりが損なわれる。正味250gを用意する。

  4. にんにく10gと生姜5gはみじん切り、小米辣3本は小口切りにする。

  5. フライパンに油10mlを入れて中火にかけ、腊肉の脂身の多い部分から先に入れて2分ほど炒め、脂を溶かし出す(煸炒)。続いて赤身を加え、縁が軽く色づいて身が半透明になるまで1分炒める。

  6. にんにく・生姜・小米辣を加え、弱めの中火で30秒炒めて香りを立たせる。

  7. 鍋肌から黄酒10mlを回し入れ、強火にして15秒あおり、アルコールを飛ばす。

  8. 火を最強にしたまま藜蒿250gを一気に加え、40秒炒める。

  9. 生抽8ml・砂糖2g・熱湯15mlを加え、さらに20秒あおって全体に絡めたら、すぐに火を止めて器に盛る。藜蒿を鍋に入れてから仕上げまでを1分以内に収めるのが、シャキッとした食感を残す最大の勘所。

本場と日本の違い

  • 藜蒿は葉を全部落として茎だけを使う。摘んだ状態から正味は半分以下になるが、葉には強い苦味と青臭さがあり、この料理の身上である「清香」を濁してしまう。中国語のレシピはほぼ例外なく「去叶、去老根、只留嫩茎(葉を落とし、老いた根元を落とし、柔らかい茎だけを残す)」と指定している。
  • 中国の腊肉は、塩漬けにしたのち天日や火棚で水分を抜いた保存食で、日本のベーコンよりはるかに塩辛く、身も締まっている。だから浸水と下ゆでが本場では必須工程になる。日本のベーコンで作る場合、この工程は不要になる代わりに、燻香と塩気の骨格はどうしても軽くなる。
  • 味の芯を担うのは腊肉の塩気とうま味であり、調味料は生抽と砂糖をごく少量あしらう程度にとどめる。日本の中華風炒め物のように醤油やオイスターソースを効かせると、藜蒿の香りが完全に消えてしまう。
  • 加熱は徹底して短い。本場の家庭でも藜蒿は「断生(生っぽさが取れる)まで」が合図で、火を通しすぎた藜蒿は水が出て黒ずむ。作り置きや再加熱には向かない、その場で食べきる料理として扱われている。
  • 藜蒿は野生種と栽培種があり、鄱陽湖畔の野生種は茎が細く香りが濃い。南昌では清明前後の短い時期に出回る野生種が珍重され、初物は季節の行事のように扱われる。

参考ページ(写真)

下厨房の「江西鄱阳湖名菜"藜蒿炒腊肉" 超级下饭家常菜」レシピページに、腊肉の下処理から炒め上げまでの手順写真が掲載されています。 https://m.xiachufang.com/recipe/106164413/

代用可能な食材

日本で生の藜蒿が流通することはまずない。香りと食感の二軸で、どこまで寄せられるかを整理しておく。

  • セリ(芹)250g:もっとも近い代用。同じく水辺に育つ香りの強い野草で、「水辺の草の清らかな香り+茎のシャキシャキ感」という方向性が一致する。ただし藜蒿の香りがヨモギに通じるやや苦味を含む薬草系なのに対し、セリはセロリ・パセリ寄りの爽やかな香りで、輪郭がより軽い。茎も細く柔らかいので、手順8の炒め時間を40秒から20秒に短縮し、葉も落とさずそのまま使う。
  • うど(独活)200g:食感の再現度が高い代用。皮を厚めにむいて4cm長さの拍子木切りにすると、藜蒿の茎に近いポリポリした歯ざわりになる。香りも山菜系で方向は近いが、藜蒿より土くさく重い。切ったらすぐ酢水(水500mlに酢5ml)に5分さらして褐変を防ぎ、水気を拭いてから使う。
  • グリーンアスパラガス200g+春菊の茎50g:通年入手できる現実的な代用。アスパラは太めのものを4cm長さの斜め切りにすると歯ざわりがよく出るが、香りは甘い青さだけで薬草感がない。そこで同じキク科の春菊の茎を50g混ぜると、藜蒿のキク科らしい香りの層に一歩近づく。春菊の葉は使わない(苦味が出すぎる)。
  • 腊肉→ブロックベーコン120g:手順1・2の塩抜きと下ゆでを省き、厚さ3mmに切ってそのまま手順5へ。塩気が腊肉より弱いので、生抽を10ml(小さじ2)に増やす。パンチェッタ100gなら塩気・熟成香ともに腊肉により近い。豚バラ塊150gに塩7gをすり込んで冷蔵で3日おいた自家製の塩豚でも、下ゆで4分で代用できる。
  • 小米辣→鷹の爪2本:種を取り除いて小口切りにする。生の赤唐辛子1本(5g)でもよい。

保存・アレンジのコツ

  • 炒めた状態での作り置きには向かない。再加熱すると茎から水が出て、この料理の生命線である歯ざわりが失われる。
  • 一方で腊肉は仕込み置きが利く。300gほどをまとめて塩抜き・下ゆでして薄切りにし、使う分ずつラップで包んで冷凍すれば1か月もつ。凍ったまま手順5のフライパンに入れられるので、次回は5分で作れる。
  • 藜蒿(または代用のセリ・うど)は、葉と根元を落として切った状態で保存袋に入れ、冷蔵で3日が目安。切る前の状態なら濡らした新聞紙で包んで冷蔵し、2〜3日で使い切る。
  • 南昌では香干(押し豆腐)を1cm幅の短冊に切って60g加える版もよく作られる。腊肉の脂を吸って食べごたえが増し、藜蒿の量を減らしても満足感が出る。
  • 辛さを強めたい場合は、手順6で小米辣を6本(12g)に増やす。贛菜は四川ほど痺れを効かせず、素直な辛さで組み立てるのが特徴なので、花椒は加えない。

出典

本文は上記の情報源を参考に、独自に再構成・翻訳したものです。