広西料理・桂菜纸包鸡

紙包鶏(纸包鸡)レシピ本場広西梧州の配合を徹底解説

皿に並んだ紙で包んだ紙包鶏と、開いた包みからのぞく色よく揚がった鶏肉のイラスト
地域
桂菜(広西・梧州)
分量
2人分・8包分
公開

この記事はAmazonアソシエイトのリンクを含みます。

一枚の紙で鶏肉を包み、そのまま熱した油の中へ沈める。紙は燃えるどころか、油を吸ってしなやかにふくらみ、中の肉汁を一滴も逃がさない。広西チワン族自治区・梧州の名物、紙包鶏(ヂーバオジー)は、この「隔紙浸炸(紙ごしに浸し揚げる)」という常識外れの技法だけで成り立っている料理だ。

伝えられている来歴はこうだ。清代末、梧州の官営料亭「環翠楼」の料理人・官良が考案し、のちに「粤西楼」の主人が官良を高額で招いたことで、役人だけのものだった一皿が街の人々の食卓に降りてきた。梧州では「150年以上の歴史がある」と語られ、民国5年(1916年)に粤西楼の看板料理として名を広げたとする記述も残る。1985年には風物ドキュメンタリー『中国一絶』に撮影・収録され、「中国一絶(中国随一の逸品)」の異名が定着した。2014年に梧州市級、2016年には広西壮族自治区級の無形文化遺産へ「紙包鶏製作技芸」として登録され、2018年には「広西十大経典名菜」にも選ばれている。なお地元の研究者・肖健氏が「南越国時代から2200年の歴史を持つ献上品だった」と唱えた説も広く引用されるが、こちらは文献的な裏づけよりも郷土の誇りとして語られている面が強い。

この料理の主役は、実は鶏よりも紙のほうかもしれない。使うのは玉扣紙(ぎょくこうし)という、若竹を原料にした手漉きの竹紙。白く均一で薄く、それでいて油を吸うとしなやかになって破れず、竹由来のほのかな香りを鶏に移す。広西の料理人たちは「この紙がなければ紙包鶏は成立しない」とまで言い切る。地域としては広東料理の流れを汲む桂菜(広西料理)に属し、宴席の一品目に出される「ハレの料理」でもある。

ここから先は、中国語の複数レシピを比較して割り出した、日本の家庭で安全に再現できる本場の配合と手順を公開する。

本場式の配合

材料(2人分・8包分)

鶏肉

  • 鶏もも肉(骨なし)3cm角に切る400g

漬けだれ

  • 生抽24ml(大さじ1と1/2)
  • 老抽5ml(小さじ1)
  • 黄酒または日本酒20ml(大さじ1と1/3)
  • 砂糖8g(小さじ2と1/2)
  • 生姜の絞り汁小さじ2。生姜約20gをすりおろして絞る10ml
  • にんにくみじん切り。半量の7.5gは揚げにんにくにする15g
  • 陳皮(乾燥みかんの皮)5g
  • 陳皮の戻し用ぬるま湯50ml
  • 沙姜粉(サンドジンジャーパウダー)1g(小さじ1/2)
  • 五香粉1g(小さじ1/2)
  • 白こしょう(粉)0.5g(小さじ1/4)
  • ごま油5ml(小さじ1)

包む・揚げる

  • 万能ねぎ3cm長さに切る。8包に3本ずつ24g
  • クッキングシートシリコーン樹脂加工・耐熱250℃以上のもの25cm角を8枚
  • 揚げ油落花生油。なければ米油やサラダ油。うち15mlをにんにくを炒めるのに使う800ml

作り方

  1. 陳皮5gをぬるま湯50mlに15分浸して戻し、水気を絞って細かいみじん切りにする。

  2. にんにく15gをみじん切りにし、半量の7.5gを小鍋に取る。揚げ油から15mlを小鍋に移し、弱火で2分ほど、薄いきつね色になるまで炒めて油ごと取り出す。残りの7.5gは生のまま使う。生にんにく・揚げにんにく・陳皮をほぼ同量ずつ使うのが、本場の香りのバランス。

  3. 鶏もも肉400gを3cm角(麻雀牌ほどの大きさ)に切り、皮側に深さ2〜3mmの切り込みを2本ずつ入れる(划刀)。味の入りが格段によくなる。

  4. ボウルに3の鶏肉、生抽24ml、老抽5ml、黄酒20ml、砂糖8g、生姜の絞り汁10ml、生にんにく7.5g、揚げにんにく(炒め油ごと)7.5g、1の陳皮、沙姜粉1g、五香粉1g、白こしょう0.5g、ごま油5mlを入れ、手で2分ほど揉み込む。ラップをして冷蔵庫で2時間漬ける。

  5. 鍋に揚げ油を入れて150℃に熱し、クッキングシートを1枚ずつ5秒ほど油にくぐらせてから網に上げる。8枚すべて同様にする。紙にあらかじめ油を含ませるこの工程が本場の要で、これをすると紙がしなやかになり、揚げている間に破れなくなる。

  6. 油をなじませたシートを、角が手前に来るよう菱形に置く。中央より手前寄りに漬けた鶏肉を50gずつ(2〜3切れ)のせ、万能ねぎを3本添える。手前の角をかぶせてひと巻きし、左右の角を内側に折り込み、最後に向こう側の角を巻き込んで封筒状に留める。同様に8包作る。

  7. 揚げ油を160℃に上げ、包みを油面に静かに沈める。油温は170℃を超えないよう火加減で調整する。 菜箸で軽く押さえ、包みが油面から出ないようにしながら6〜8分揚げる。

  8. 紙がぷっくり膨らみ、中の肉汁が外へにじみ出なくなったら火が通ったサイン。網に立てかけて2分ほど油を切る。

  9. 器に盛り、そのまま食卓へ。食べる直前に紙を開くと、閉じ込められていた香りが一気に立ちのぼる。

本場と日本の違い

  • 本場では鶏を骨付きのままぶつ切りにした三黄鶏(地鶏)を使い、包みも一口ごとに小さく作る。日本のスーパーで買える鶏もも肉で作ると、骨のうま味は出ないぶん火の通りが均一になり、失敗が少ない。皮側に切り込みを入れて味を入れる工程で、この差はかなり埋まる。
  • 揚げ油は本場では落花生油と決まっている。落花生油の香ばしさが玉扣紙の竹の香りと重なって、あの独特の風味になる。米油やサラダ油でも作れるが、香りの層は一段減る。
  • 梧州の店では紙を開かずに出し、客が自分で紙を破って食べる。紙をめくった瞬間に湯気と香りが立つところまでが料理のうち、という考え方で、これは家庭でもそのまま真似できる。
  • 日本の中華料理店で「紙包み」と称して出るものは、アルミホイルやオーブンシートで包んでオーブンで焼く方式が多い。これは蒸し焼きであって、紙が油を吸い、紙の内側だけが高温になる「浸炸」とは仕上がりが別物になる。

参考ページ(写真)

下厨房の「纸包鸡」レシピページに、紙を油にくぐらせる工程と包み方の手順写真が掲載されています。 https://m.xiachufang.com/recipe/106163022/

紙をどうするか(重要)

この料理は紙の選び方が安全性そのものに直結するので、ここだけは正確に押さえておきたい。

  • 玉扣紙:福建省の寧化・連城などで漉かれる竹の手漉き紙。中国では紙包鶏専用に食品用として流通しているが、日本では食品用途としての流通がなく、事実上入手できない。書道用に売られている竹紙・唐紙は食品に触れる用途を想定して作られておらず、揚げ油に入れる使い方はできない。
  • 糯米紙(オブラート):水分ですぐ溶ける食用フィルムなので、肉汁を含んだ鶏を包むと包んだ端から溶けてしまう。紙包鶏の包み紙には使えない。
  • クッキングシート(シリコーン樹脂加工の耐油紙):中国語のレシピでも玉扣紙の代用として「烘焙纸(ベーキングペーパー)」が推奨されており、これが日本で最も現実的な選択肢になる。国内主要メーカー品の耐熱温度は250℃20分/300℃5分と表示されており、160℃の揚げ油はこれを下回る。ただしメーカーは「油で揚げる」を推奨用途として案内していないため、次の3点は必ず守ること。①油温を170℃以上に上げない。②包みが油面から出て空焼き状態にならないよう、菜箸で押さえて完全に沈める。③調理中はコンロから離れない。
  • 使ってはいけない紙:ワックスペーパー(ろう引き紙)は蝋が溶け出す。半紙・障子紙・和紙・クラフト紙は食品用に作られておらず、油の中では強度も足りない。

代用可能な食材

  • 玉扣紙→クッキングシート(シリコーン樹脂加工・耐熱250℃以上のもの)25cm角8枚
  • 落花生油→米油またはサラダ油800ml(香りは軽くなる)
  • 沙姜粉→生姜のすりおろし3gを追加(生姜とは別系統の香りなので、風味の方向性は変わる)
  • 陳皮→乾燥みかんの皮5g、または国産みかんの皮を干したもの5g
  • 老抽→濃口醤油5mlで代用可(風味は異なる)。色づけが目的なので分量は増やさない
  • 黄酒→日本酒20ml
  • 鶏もも肉→骨付き鶏ぶつ切り450g(本場に近いが、揚げ時間を9〜10分に延ばす)

揚げない作り方

揚げ油800mlを使うのが難しいときは、中国の家庭でも使われている簡易版がある。手順6まで同じように包み、蒸気の上がった蒸し器で強火15分蒸す。紙が油を吸わないぶん香ばしさは出ないが、肉汁を閉じ込めるという紙包鶏の本質は再現できる。仕上げに、フライパンでごま油10mlを煙が立つ直前まで熱し、開いた紙の上の鶏肉にジュッとかけると香りが立つ。

保存・アレンジのコツ

  • 漬けた鶏肉は、包む前の状態なら冷蔵で1日、冷凍で2週間保存できる。冷凍する場合は漬けだれごと保存袋に入れ、冷蔵庫で解凍してから包む。前日に漬けておくと味がより深く入る。
  • 揚げたあとの包みは冷めても紙が肉汁を抱えているので、翌日は包んだまま180℃のオーブンで8分温め直すと食感が戻る。電子レンジは紙がふやけるので向かない。
  • 香りを変えたいときは、漬けだれに八角1個(約1g)を割り入れて一緒に漬け込む。梧州の店でも八角を効かせる配合がある。
  • 残った漬けだれは鶏を取り出したあと小鍋で1分煮立て、水20mlでのばすと、そのままつけだれになる。

出典

本文は上記の情報源を参考に、独自に再構成・翻訳したものです。