安徽料理・徽菜无为板鸭

無為板鴨(无为板鸭)レシピ本場安徽・無為の配合を徹底解説

赤褐色に仕上がった骨付きの鴨肉を切り分け、楕円の皿に並べた無為板鴨のイラスト
地域
徽菜(安徽・無為)
分量
2人分
公開

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「板鴨(バンヤー)」と名の付く料理は中国各地にあるが、そのほとんどは同じものを指す。鴨を開いて塩漬けにし、板で平らに押しつぶし、風に当てて干し上げた保存食のことだ。南京板鴨がその代表格で、辞書の語釈にも「塩漬けにして板状に圧し、風乾させた鴨」とある。ところが安徽省無為(現・無為市)の板鴨だけは、押しもしなければ干しもしない。塩をすり込んだ鴨を杉のおがくずで燻し、三十種を超える香辛料の効いた煮汁でじっくり煮上げる。工程がまるごと違うのに「板鴨」を名乗るこの一皿が、地元で「無為熏鴨(無為燻製鴨)」とも呼ばれる理由である。

誕生は清代にさかのぼる。中文維基百科によれば製法が生まれたのは乾隆年間で、道光年間にはすでに広く行われていた。土地の言い伝えで主役になるのは、無為に移り住んだ回族の料理人・馬常有だ。清真料理店を営んでいた彼は牛肉や羊肉の仕入れに行き詰まっていたが、ある日、川べりで少年たちが野鴨を炙っているのを目にする。誰に習ったのかと尋ねると、返ってきた答えは「皇帝のじいさまに教わった」。放牛童として野で鴨を焼いて食べたという、明の太祖・朱元璋の少年時代の逸話だった。ここから着想を得た馬常有は、杉や樟の木粉で燻してから複数の香辛料で煮るという独自の手順にたどり着いたと伝えられている。

無為板鴨は徽菜(安徽料理)を代表する持ち帰り惣菜で、原料には巣湖流域で育つ麻鴨(マガモ系の在来種)が使われてきた。その製作技芸は2014年公布の安徽省第四批省級無形文化遺産名録(伝統技芸・Ⅷ-66)に登録されている。ここから先は、中国語の複数レシピを比較して割り出した、日本の家庭で作れる本場の配合と手順を公開する。

本場式の配合

材料(2人分)

鴨と下漬け

  • 鴨もも肉骨付き。フランス産の冷凍品で可2本(約400g)
  • 塩(下漬け用)4.5g(小さじ3/4)
  • 花椒(ホール)2g(小さじ1)
  • 生姜(下漬け用・すりおろし)5g

燻製用

  • 紅茶の茶葉茶葉のみ。ティーバッグの中身でも可15g
  • 米(生米のまま)30g
  • ざらめ糖または上白糖15g

煮汁

  • 水800ml
  • 生抽30ml(大さじ2)
  • 老抽5ml(小さじ1)
  • 黄酒または日本酒30ml(大さじ2)
  • 氷砂糖または上白糖8g
  • 塩(煮汁用)1.5g(小さじ1/4)
  • 八角2個(3g)
  • 桂皮(シナモンスティック)4g(1本)
  • 小茴香(フェンネルシード)2g(小さじ1)
  • 草果包丁の腹で軽く割る1個(4g)
  • 白豆蔻2g(4〜5粒)
  • 甘草(スライス)2g
  • 陳皮2g
  • ローリエ(香葉)2枚(0.5g)
  • 乾燥唐辛子2本(1.5g)
  • 生姜(薄切り)15g
  • 長ねぎの青い部分(5cmのぶつ切り)20g

作り方

  1. 鴨もも肉2本は水気を拭き取り、皮目にフォークで10か所ほど穴をあける。塩4.5g・粗く砕いた花椒2g・すりおろし生姜5gを混ぜ合わせ、皮側と身側の両面にまんべんなくすり込む。密閉袋に入れて冷蔵庫で12時間〜一晩漬ける。

  2. 漬けた鴨を取り出し、流水で表面の花椒と塩を洗い流して水気をしっかり拭く。皮目を上にしてバットに置き、沸騰した湯200mlを皮の上から一気に回しかけて皮を張らせる(本場でいう「烫皮」)。すぐに水気を拭き取る。

  3. 網に乗せて冷蔵庫に入れ、ラップをかけずに最低2時間、できれば6時間乾かす。表面がさらりと乾いた状態にするのが、燻製の香りをきれいにのせるコツ。

  4. 中華鍋か深いフライパンにアルミホイルを二重に敷き、茶葉15g・米30g・ざらめ15gを混ぜて平らに広げる。その上に丸網を置き、鴨を皮目を上にして並べる。

  5. ふたをして中火にかける。換気扇を最大にして回しておく。煙が上がり始めてから5分燻し、いったん火を止めて鴨を裏返し、再び中火で3分燻す。皮が飴色に色づいたら取り出す。

  6. 鍋に水800ml・生抽30ml・老抽5ml・黄酒30ml・氷砂糖8g・塩1.5gと、八角2個・桂皮4g・小茴香2g・草果1個・白豆蔻2g・甘草2g・陳皮2g・ローリエ2枚・乾燥唐辛子2本・生姜15g・長ねぎ20gをすべて入れ、中火で沸かしてから弱火で15分煮出す。

  7. 燻した鴨を煮汁に沈める。表面がかすかにゆらぐ程度(85〜90℃)の火加減を保ち、ふたをして35〜40分煮る。ぐらぐらと沸騰させると身が締まってパサつくので、絶対に強火にしない。

  8. 火を止め、ふたをしたまま煮汁の中で30分置いて味を含ませる。

  9. 鴨を取り出して粗熱を取り、冷蔵庫で2時間以上しっかり冷やす。骨に沿って身を外し、1cm幅に切って盛りつける。煮汁100mlを1/3量まで煮詰めてかけると、照りとコクが加わる。

本場と日本の違い

  • 本場では巣湖流域の麻鴨を丸ごと1羽使い、塩と硝水(発色剤)で数時間漬け込んでから、杉や樟のおがくずで燻し、三十種以上の香辛料を煮出した煮汁で1時間前後煮る。硝水は家庭で扱うものではないため、この配合では塩のみで漬け、燻製の色づきと老抽で仕上がりの色を補っている。
  • 燻す材料が違う。本場の木粉に対し、日本の家庭で手に入りやすいのは茶葉・米・砂糖の組み合わせ。木の香りではなく茶と焦糖の香りになるが、「脂の乗った鴨に燻香をまとわせてから煮る」という無為板鴨の骨格そのものは再現できる。
  • 「先に燻し、後から煮る(先熏后卤)」というこの順序が、無為板鴨を他の鴨料理から分ける決定的な違いになる。北京烤鴨は生地のまま炉で焼き上げ、南京板鴨は塩漬けにして板で押し、干して仕上げる。無為板鴨だけが燻製と煮込みという2つの加熱を重ねている。
  • 現地では熱々を食べる料理ではなく、冷ましてから骨ごと叩き切り、冷菜として供されるのが基本。屋台や専門店で1羽まるごと買い、家に持ち帰って切り分けるのが日常の食べ方になっている。冷やすと脂が締まり、燻香と香辛料の余韻がはっきり立ち上がるので、この配合でも必ず一度冷やしてから切ってほしい。

参考ページ(写真)

下厨房の「无为板鸭家庭版」レシピページに、下漬けから茶葉での燻製、煮込みまでの手順写真が掲載されています。 https://m.xiachufang.com/recipe/105973546/

代用可能な食材

  • 鴨もも肉→骨付き鶏もも肉2本(約450g)。煮る時間を30分に短縮する。合鴨ロース300gでも作れるが、その場合は煮る時間を15分にして火を通しすぎないようにする
  • 燻製の工程が難しい場合→正山小種(ラプサンスーチョン。松の煙で燻した中国紅茶)の茶葉5gを煮汁に加えると、鍋で燻さずに燻香を移せる。工程4〜5を省略して工程6へ進む
  • 白豆蔻→グリーンカルダモン2g(香りの方向性は近い)
  • 草果→黒カルダモン1個、または省いて八角を3個に増やす
  • 甘草→省く場合は氷砂糖を12gに増やして甘みの厚みを補う
  • 陳皮→乾燥させたみかんの皮2g、または省く
  • 黄酒→日本酒30ml
  • 花椒→山椒の実(ホール)2g(痺れは弱くなる)

保存・アレンジのコツ

  • 煮汁ごと保存容器に入れれば冷蔵で3日もつ。食べるたびに必要な分だけ取り出して切ると、切り口が乾かず香りも抜けにくい。
  • 煮汁は漉して冷凍すれば1か月保存できる。次に鴨や鶏、ゆで卵、厚揚げを煮るときに使い回すと、回を重ねるごとにコクが増していく。中国で「老卤」と呼ばれる継ぎ足しの考え方そのままの使い方になる。
  • 現地では、おろしにんにくと黒酢を1:2で合わせたたれを添えて食べることも多い。脂の甘みが締まり、冷菜としての輪郭がはっきりする。
  • 残った身をほぐし、きゅうりの細切りと合わせて煮汁を煮詰めたものであえると、そのまま酒の肴になる。

出典

本文は上記の情報源を参考に、独自に再構成・翻訳したものです。