湖北料理・鄂菜武昌鱼

武昌魚(清蒸武昌鱼)レシピ本場湖北・武漢の配合を徹底解説

丸ごと蒸した魚にねぎと生姜の千切りをのせ、醤油だれに湯気が立つ楕円の白い皿の武昌魚のイラスト
地域
湖北・武漢
分量
2人分
公開

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「建業の水を飲むことはあっても、武昌の魚は食べたくない」——三国時代、そんな皮肉な俗謡が政治的な反対運動に使われるほど、この魚は特別な存在だった。武昌魚(武昌鱼)の物語は、そんな逆説から始まる。

265年、呉の最後の皇帝・孫皓が都を建業(現在の南京)から武昌(現在の湖北省鄂州)へ移そうとした際、丞相の陸凱は民間で広まっていた俗謡「寧飲建業水、不食武昌魚(建業の水を飲むほうがまし、武昌の魚は食べたくない)」を引用して遷都に反対したという。皮肉にも、この反対の言葉こそが「武昌魚」の名を歴史書に刻んだ最初の記録になったと伝えられている。

そして武昌魚を全国区の名物に押し上げたのが、1956年に毛沢東が武漢で長江を泳いだ際に詠んだ詩「水調歌頭・游泳」の一節、「才飲長沙水、又食武昌魚(たった今長沙の水を飲んだばかりなのに、もう武昌の魚を食べている)」だ。三国時代の故事をさりげなく引用したこの一句によって、武昌魚は一躍中国全土に知れ渡ることになった。

ここでいう「武昌魚」は特定の一尾を指す固有名詞ではなく、正式には団頭鲂(だんとうぼう)という、湖北省・梁子湖原産のコイ科の淡水魚を指す。1955年に魚類学者・易伯魯が梁子湖の鳊魚(へんぎょ)を調査し、頭が小さく体が扁平で肉質の細やかな固有種であることを確認したことで、この魚こそが「本場正統」の武昌魚だと学術的に裏付けられた。湖北・武漢では、この団頭鲂を丸ごと一尾使い、素材の味を最大限に活かす清蒸(蒸し料理)で仕上げるのが最も代表的な食べ方とされる。三国志と現代政治史、両方のロマンをまとった一皿を、本場の配合で再現してみよう。ここから先は、中国語の複数レシピを比較して割り出した、家庭で作れる本場の配合と手順を公開する。

本場式の配合

材料(2人分)

  • 武昌魚の代用魚真鯛またはすずき、尾頭付き。うろこ・エラ・内臓を除いた下処理済み700g
  • 塩小さじ3/4、下味用4g
  • 黄酒日本酒で代用可15ml
  • 生姜薄切り10g+千切り10g20g
  • 長ねぎ(青い部分)千切り15g
  • 赤唐辛子(新鮮なもの、あれば)千切り5g
  • 蒸魚豉油30ml
  • 食用油(サラダ油など)仕上げの熱油用20ml
  • パクチー飾り用5g

作り方

  1. 魚は表面のぬめりを洗い流し、キッチンペーパーで水気をよく拭き取る。両面に浅く数本の花刀(飾り切り)を入れ、塩4gと黄酒15mlを全体にすり込み、生姜の薄切り10gを腹の中と表面に乗せて15分ほど下味をなじませる。

  2. 蒸し皿に生姜の千切り10gの半量を敷き、1の魚を下味用の生姜ごと乗せる。

  3. 蒸し器の湯をしっかり沸騰させてから魚を入れ、強火で10〜12分蒸す(今回の700g目安。魚が大きい場合は長めに調整する)。

  4. 火を止めてふたをしたまま3〜5分置く(虚蒸)。余熱でじっくり中まで火を通し、身をふっくらと仕上げる。

  5. 皿に溜まった蒸し汁(魚の生臭みの元)は必ず捨てる。魚を新しい皿に盛り直すか、皿を傾けて汁だけを流し出す。

  6. 魚の上に残りの生姜の千切り10g・長ねぎ15g・赤唐辛子5gを均等に乗せ、蒸魚豉油30mlを回しかける。

  7. フライパンで食用油20mlを煙が立つ直前まで熱し、魚の上に一気に回しかける。ジュワッという音とともに薬味の香りが立ったら、パクチー5gを散らして完成。

本場と日本の違い

  • 本場では魚を尾頭付きのまま丸ごと一尾使うのが大前提。切り身での提供が多い日本の中華料理店とは違い、姿のまま蒸し上げることで身の締まりと見た目の豪華さを両立させる。
  • 蒸し終わった皿にたまる汁を必ず捨ててから新しい薬味を乗せ直し、熱した油を回しかける「二段仕上げ」が本場の清蒸魚の鉄則。生臭みを断ち切りつつ、油の香ばしさで薬味の香りを一気に引き立てる工程で、これを省くレシピはほとんど見当たらなかった。
  • 団頭鲂(本来の武昌魚)は淡水魚らしい脂の乗った柔らかい身質で、骨が少なく「13本半」としばしば形容されるほど上質な魚とされる。三国志や毛沢東の詩で全国的に名前は知られているのに、日本の中華料理店ではほとんど扱われない、湖北ローカルの誇りが詰まった一皿だ。

参考ページ(写真)

下厨房の「清蒸武昌鱼的做法步骤图,清蒸武昌鱼怎么做好吃」レシピページに、花刀の入れ方から蒸し上げ・熱油をかける仕上げまでの手順写真が掲載されています。 https://www.xiachufang.com/recipe/104766058/

代用可能な食材

  • 団頭鲂(武昌魚)→日本ではほぼ入手不可能な中国原産の淡水魚のため、丸ごと一尾で手に入りやすい真鯛やすずきで代用するのが実用的。同じコイ科の鯉(コイ)でも代用できるが、独特の泥臭さが出やすいため下処理(血合い・内臓の掃除)を念入りに行う。
  • 蒸魚豉油→入手できない場合は生抽15mlと砂糖3gを混ぜたもので代用可(甘みと香りは本場よりやや控えめになる)
  • 黄酒→日本酒で代用可

保存・アレンジのコツ

  • 蒸した魚は当日中に食べきるのが基本。残った場合はラップをして冷蔵し、翌日は蒸し直すより軽くほぐしてお粥や炒飯の具にするとおいしく食べきれる。
  • 辛味を足したい場合は、仕上げの熱油に乾燥唐辛子や花椒を数粒一緒に熱してから注ぐと、清蒸魚に軽いピリ辛のアクセントが加わる。
  • 大きめの魚で作る場合は、皮目に牡丹花刀のような飾り包丁を入れると、本場の宴会料理さながらの見栄えに仕上がる。

出典

本文は上記の情報源を参考に独自に再構成・翻訳したものです。