湖北料理・鄂菜沔阳三蒸

沔陽三蒸(沔阳三蒸)レシピ本場湖北・仙桃の配合を徹底解説

せいろに米粉をまぶした肉、白い蒸し物、青菜を盛り合わせた沔陽三蒸のイラスト
地域
湖北(仙桃・旧沔陽)
分量
2人分
公開

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肉に米の粉をまぶして蒸す。ただそれだけの料理が、湖北省仙桃市では600年以上受け継がれ、省の無形文化遺産にまで登録されている。

舞台は長江と漢水にはさまれた水郷・沔陽(現在の仙桃市)。「一年雨水魚当糧(一年中水びたしで、魚が主食がわり)」と歌われたこの土地では、米は貴重で魚と野菜だけが有り余っていた。そこで人々は雑穀を挽いた粉を魚や野菜に混ぜて蒸した。わずかな穀物で腹を満たす知恵が、粉蒸という技法の出発点だったと伝えられている。

もう一つ、より有名なのが元末の群雄・陳友諒にまつわる伝説だ。沔陽出身の陳友諒が挙兵し県城を落としたとき、行軍続きの兵士たちが胃腸を壊していた。そこで彼の妻が、米を挽いた粉を肉・魚・野菜それぞれに混ぜて蒸し、柔らかく消化のよい料理を作って振る舞った——これが「三蒸」の始まりだという。1986年に沔陽県が仙桃市へ改称された後も、料理の名だけは旧地名を残している。

では「三蒸」とは何と何と何なのか。実は解釈が並立している。最も広く支持されているのは、畜禽(肉)・水産(魚)・蔬菜(野菜)の三カテゴリを蒸すという食材による分類。一方で湖北省の公的な紹介文では、粉蒸・清蒸・扣蒸という三つの蒸し技法を指すという読み方も併記されている。地元では蒸し技法だけで九種、十種を数え、「三」は数というより「万物皆可蒸(何でも蒸せる)」という土地柄の象徴に近い。

ここから先は、中国語の複数レシピを比較して割り出した、家庭で作れる本場の配合と手順を公開する。三品を並べるのではなく、心臓部である自家製の蒸肉米粉と代表格の粉蒸肉(レンコン敷き)の二本を軸に解説する。

本場式の配合

材料(2人分)

蒸肉米粉(作りやすい分量・仕上がり約200g。このうち60gを使用)

  • うるち米140g
  • もち米60g
  • 花椒2g(小さじ1)
  • 八角2個
  • 桂皮3cm角1片3g
  • 香葉(ローリエ)2枚
  • 十三香1g(小さじ1/2)
  • 白胡椒(粉)0.5g(小さじ1/4)

粉蒸肉(肉の部分)

  • 豚バラ肉(かたまり・皮付きが理想)300g
  • 生姜みじん切り8g
  • にんにく2片・みじん切り8g
  • 郫県豆瓣醤包丁で細かく刻む12g
  • 生抽12ml(大さじ3/4)
  • 老抽4ml(小さじ3/4)
  • 黄酒または日本酒15ml(大さじ1)
  • 香醋5ml(小さじ1)
  • 上白糖3g(小さじ3/4)
  • 塩1.25g(小さじ1/4)
  • ごま油5ml(小さじ1)
  • 蒸肉米粉(上記から)40g
  • 水(米粉をなじませる用)20ml

底に敷くレンコン(粉蒸藕)

  • レンコン250g
  • 塩1.25g(小さじ1/4)
  • 食用油5ml(小さじ1)
  • 蒸肉米粉(上記から)20g
  • 水(米粉をなじませる用)15ml

蒸す・仕上げ

  • 蒸し器に張る水1500ml
  • 万能ねぎ小口切り10g

作り方

蒸肉米粉を作る(約50分/保存できるので前日でも可)

  1. うるち米140gともち米60gを合わせてさっと洗い、ざるに上げて30分おき、水気をしっかり切る。表面が乾いた状態にしてから炒ると、色ムラが出にくい。

  2. フライパンに米、花椒2g、八角2個、桂皮3g、香葉2枚を入れ、油をひかずに弱火で15〜20分、木べらで絶えず混ぜながら炒る。米がうっすらきつね色に色づき、香ばしい香りが立ったら火を止める。強火にすると外だけ焦げて中が生のままになる。

  3. バットに広げて20分おき、完全に冷ます。熱いまま挽くと粉が湿って固まる。

  4. 八角・桂皮・香葉を取り除き、ミルサー(またはすり鉢)で挽く。完全な粉にはせず、グラニュー糖くらいの粒(1〜2mm)が残る粗挽きで止めるのが本場の質感。仕上げに十三香1gと白胡椒0.5gを混ぜる。

  5. 完全に冷めてから密閉容器へ。取り除いた八角・桂皮を一緒に入れておくと香りが持続する。

下ごしらえ(約40分/うち漬け込み30分)

  1. 豚バラ肉300gを厚さ5mm・長さ6cm・幅3cmの大きめの薄切りにする。半冷凍にすると厚みが揃う。

  2. ボウルに肉を入れ、生姜8g・にんにく8g・郫県豆瓣醤12g・生抽12ml・老抽4ml・黄酒15ml・香醋5ml・上白糖3g・塩1.25g・ごま油5mlを加え、手で2分ほど揉み込む。ラップをして冷蔵庫で30分漬ける。

  3. その間にレンコン250gの皮をむき、厚さ1.5cmの半月切りにする。水にさらさず、切ったそばから塩1.25gと食用油5mlをまぶしておく(水にさらすとでんぷんが抜け、蒸したときのほくほく感が失われる)。

粉をまとわせる(約10分)

  1. 漬けた肉に蒸肉米粉40gと水20mlを加え、手で全体を返すように和える。粉が肉一枚一枚にしっとり張りつき、ボウルの底に乾いた粉が残らない状態が正解。そのまま5分おいて粉に水を吸わせる。この一手間で蒸し上がりのざらつきが消える。

  2. レンコンにも蒸肉米粉20gと水15mlを加えて同様に和える。

蒸す(約60分)

  1. 直径15cm前後の深皿(または蒸し碗)にレンコンを重ならないように敷き詰め、その上に肉を1枚ずつ広げて重ねる。ぎゅうぎゅうに押し込まず、蒸気が抜ける隙間を残す。

  2. 蒸し器に水1500mlを入れて沸騰させ、皿を入れる。強火で10分、その後中火に落として50分、合計60分蒸す。途中で湯が減ったら熱湯を足す(冷水を足すと温度が下がって蒸し時間が狂う)。

  3. 竹串が肉にすっと通り、レンコンがほろりと崩れる粉質になっていれば完成。皿ごと食卓に出すか、大皿をかぶせてひっくり返し、肉が上になるように盛りつける。

  4. 万能ねぎ10gを散らす。底にたまった肉汁とレンコンを一緒にすくって食べるのが地元の作法。

本場と日本の違い

  • 「三蒸」を三皿そろえる必要はない。 現地では素三蒸(野菜3種)、葷三蒸(肉・魚・団子)、葷素の組み合わせなど自由に構成される。日本語圏では「蒸肉・蒸魚・蒸菜の三点セット」と紹介されがちだが、実際は「三つのカテゴリから選ぶ」という枠組みの名前であって、固定メニューではない。
  • 米粉は買うものではなく炒って挽くもの。 日本で手に入る「蒸肉粉」は細かく挽かれ、あらかじめ味がついている製品がほとんど。本場の粗挽きは粒が残っているぶん肉汁を抱え込み、蒸し上がりに「ぷつぷつした噛みごたえ」が生まれる。この食感の差が、粉蒸料理の印象をいちばん大きく変える。
  • 粉の粗さを用途で変える。 現地では肉用がいちばん粗く、魚用は中くらい、野菜用がいちばん細かい。同じ粉を全部に使うのは家庭の簡略版で、専門店は挽き分けている。
  • 底の野菜が脇役ではない。 日本の感覚では肉の下敷きに見えるが、沔陽三蒸では滴り落ちた肉汁を吸ったレンコン(あるいはじゃがいも・かぼちゃ)が、しばしば肉より先になくなる。これ自体が「蒸蔬菜」として三蒸の一角を担っている。
  • 辛くない。 湖南や四川の粉蒸と違い、沔陽三蒸の評価軸は「原汁原味・鮮醇不膩(素材の味そのまま、うま味があってしつこくない)」。郫県豆瓣醤はごく少量で、辛さを出すためではなく発酵のコクを足すために使う。日本の中華料理店で「湖北料理」を辛い料理として想像していると、まったく別の顔に出会うことになる。

参考ページ(写真)

下厨房の「莲藕粉蒸肉(自制蒸肉米粉)」レシピページに、米粉を炒る工程とレンコンに敷いて蒸す手順の写真が掲載されています。 https://m.xiachufang.com/recipe/100032993/

代用可能な食材

  • 蒸肉米粉→市販の蒸肉粉(蒸肉米粉)60g。味付き製品が多いので、その場合は生抽を8mlに減らす
  • レンコン→じゃがいも250g(1.5cm厚に切る)、さつまいも250g、かぼちゃ250gのいずれか。現地でもこの3つは定番の底菜
  • 豚バラ肉→豚スペアリブ300g(骨付き。蒸し時間を合計70分に延ばす)、または豚肩ロース300g(脂が少ないぶんごま油を8mlに増やす)
  • 郫県豆瓣醤→一般的な豆板醤12g(塩気の強い銘柄が多いので生抽を9mlに減らす)
  • 香醋→米酢5ml(酸味がやや立つので、まず3mlから試す)
  • 十三香→五香粉1g
  • 香葉(ローリエ)→省いてよい。花椒・八角・桂皮の3つが残っていれば香りの骨格は保てる
  • ミルサーがない場合→すり鉢で15分すり潰す、または厚手のポリ袋に入れてめん棒で叩き潰す。粗挽きが正解なので、むしろ手作業のほうが本場の粒感に近い
  • 蒸し器がない場合→深いフライパンに水1500mlを張り、皿より背の高い器を逆さに沈めて台にし、ふたをして同じ時間蒸す

保存・アレンジのコツ

  • 蒸肉米粉は密閉容器で常温1か月、冷凍で3か月。まとめて作っておくと、粉蒸料理が「まぶして蒸すだけ」の平日メニューになる。香りが飛んだと感じたら、使う前にフライパンで1分から炒りすると戻る。
  • 蒸し上がった粉蒸肉は冷蔵で3日。温め直しは電子レンジではなく蒸し器で10分が正解。米粉が水分を取り戻し、作りたてに近い状態に戻る。
  • 下味と米粉をまぶした状態で冷凍すれば1か月保存できる。解凍せず凍ったまま蒸し、時間を合計75分に延ばす。
  • 粉蒸魚(蒸水産)に展開する:すずきや鯛など白身魚の切り身300gを2cm幅に切り、生抽10ml・黄酒10ml・生姜6g・塩1gで15分下味をつけ、蒸肉米粉30gと水15mlを和えて強火で12分蒸す。魚は肉と違って長く蒸すとパサつくので、時間管理が真逆になる。
  • 粉蒸菜(蒸蔬菜)に展開する:春菊200g(またはささげ、いんげん)に蒸肉米粉30g・食用油5ml・塩1gをまぶし、強火で4分蒸して、にんにく5gのみじん切りとごま油5mlで和える。葉物は3〜5分、根菜は10〜15分が現地の目安。
  • 粉蒸肉・粉蒸魚・粉蒸菜を同じ蒸し器の段違いで同時に蒸せば、そのまま「三蒸」の食卓になる。火の通りにくい肉を最下段、魚と野菜は後から上段に足すと、一度の加熱で三品が揃う。

出典

本文は上記の情報源を参考に、独自に再構成・翻訳したものです。