山西料理・晋菜过油肉

過油肉(过油肉)レシピ本場山西の配合を徹底解説

衣をつけた豚肉に木耳とにんにくの芽を合わせ、茶色いたれで炒めた過油肉のイラスト
地域
晋菜(山西)
分量
2人分
公開

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炒め物なのに、肉をいったんたっぷりの油に泳がせてから炒める。しかも味の決め手は醤油ではなく「酢」――山西を代表する一皿・過油肉は、日本の中華料理の常識から少しだけ外れたところにある。

料理名の「過油」とは、下味と衣をつけた肉を低めの温度の油にさっとくぐらせ、表面だけを固めて中の水分を閉じ込める技法のこと。それがそのまま料理名になった。起源は明代の官府(役人の屋敷)の料理とされ、太原周辺の民間に降りてきたのち山西全域へ広がった。陽泉市平定県に伝わる系統がもっとも正統とされ、1957年には「太原十大名菜」の一つに選ばれている。

さらに有名なのが清末の逸話だ。光緒26年(1900年)、西へ逃れる途中で山西に立ち寄った西太后が、地元の富豪・邢士廉の屋敷でこの料理を供され絶賛したと伝わる。この一皿はその後宮廷でも改良され、「四大抓炒」の一つ「抓炒里脊」の原型になったとも言われている。

そして過油肉を過油肉たらしめているのが、山西老陳醋の使い方である。晋菜(山西料理)は中国でもっとも酢を効かせる系統で、過油肉でも下味・鍋肌・仕上げの複数のタイミングに分けて酢を入れる。「酢は時機・量・程度を見極めてこそ、臭みを消し香りを増す」というのが本場に伝わる要諦だ。加熱の途中で鍋肌から酢を注ぐと、酸味の角がとび、香りだけが料理に残る。

ここから先は、中国語の複数レシピを比較して割り出した、家庭で作れる本場の配合と手順を公開する。

本場式の配合

参考ページ(写真)

下厨房の「山西过油肉」レシピページに、肉の油通しから仕上げまでの手順写真が掲載されています。 https://m.xiachufang.com/recipe/104624081/

材料(2人分)

主材料

  • 豚ヒレ肉(里脊肉)厚さ2〜3mmの薄切り200g
  • にんにくの芽(蒜薹)4cm長さに切る120g
  • 木耳(乾燥)水で戻して約50g5g
  • 長ねぎ斜め薄切り15g
  • にんにく薄切り8g
  • 生姜せん切り5g

肉の下味・衣

  • 生抽10ml(小さじ2)
  • 黄酒または日本酒10ml(小さじ2)
  • 陳醋2ml(小さじ1/2)
  • 花椒粉0.5g(小さじ1/4)
  • 白胡椒(粉)0.2g(小さじ1/10)
  • 卵白卵1個分30g
  • 片栗粉10g(大さじ1)

花椒水(香りのだし)

  • 花椒(ホール)2g
  • 八角1個(約2g)
  • 水煮出して100ml使う120ml

合わせ調味料(碗汁)

  • 花椒水100ml
  • 生抽10ml(小さじ2)
  • 老抽5ml(小さじ1)
  • 陳醋10ml(小さじ2)
  • 砂糖2g(小さじ1/2)
  • 片栗粉4g(小さじ1と1/3)
  • 水(片栗粉を溶く用)10ml(小さじ2)

仕上げ・油

  • 陳醋(鍋肌用)5ml(小さじ1)
  • 油通し用の油実際に吸収されるのは約15ml300ml
  • 炒め油大さじ1/油通しの油から取り分ける15ml
  • ごま油5ml(小さじ1)

作り方

  1. 乾燥木耳5gをぬるま湯200mlに20分浸けて戻す(戻し上がりで約50g)。かたい石づきを切り落とし、一口大に手で裂いて水気を切る。

  2. 小鍋に花椒2gと八角1個を入れ、水120mlを注いで沸かす。弱火にして5分煮出し、漉して花椒水100mlを取る(煮詰まって足りない場合は水を足して100mlにする)。冷ましておく。

  3. 豚ヒレ肉200gは、繊維に対して包丁を斜めに寝かせて厚さ2〜3mmの薄切りにする。ボウルに入れ、生抽10ml・黄酒10ml・陳醋2ml・花椒粉0.5g・白胡椒0.2gを加え、水分を吸わせるように1分ほど手で揉み込む。卵白30gを加えて全体に絡め、最後に片栗粉10gを加えて薄い衣状にまとわせ、30分置く。

  4. にんにくの芽120gは4cm長さ、長ねぎ15gは斜め薄切り、にんにく8gは薄切り、生姜5gはせん切りにする。

  5. 合わせ調味料を作る。花椒水100ml・生抽10ml・老抽5ml・陳醋10ml・砂糖2gを混ぜておく。片栗粉4gは水10mlで溶き、別にしておく。

  6. 中華鍋に油300mlを入れ、160〜165℃に熱する。肉を1枚ずつ広げながら入れ、箸でほぐしながら20〜30秒、表面が白く固まったところで取り出して油を切る。ここが「過油」の工程で、揚げ色がつくまで加熱しないのがポイント。

  7. 鍋の油を大さじ1(15ml)だけ残して残りは取り出す。強めの中火にかけ、長ねぎ・にんにく・生姜を10秒炒めて香りを立たせる。にんにくの芽を加えて1分30秒炒め、木耳を加えてさらに30秒炒める。

  8. 6の肉を戻し入れ、鍋肌から陳醋5mlを回し入れる。ジュッと音が立って湯気が上がったら、5秒ほどで一気に炒め合わせる(烹醋)。

  9. 合わせ調味料を注ぎ、強火で30秒〜1分煮立てる。水で溶いた片栗粉を回し入れて全体にとろみをつけ、ごま油5mlを回しかけて火を止める。皿に盛って完成。

本場と日本の違いのポイント

  • 日本の中華料理店の「肉と野菜の炒め物」は下味をつけた肉をそのまま炒めることが多いが、山西の過油肉は必ず低温の油に一度くぐらせる。165℃前後という比較的低い油温で表面だけを固めるため、揚げ物のような衣にはならず、しっとりした食感だけが残る。本場では「火加減がこの料理の成否を分ける鍵」とまで言われる工程。
  • 味の骨格が酢である点が最大の違い。山西老陳醋は5年前後熟成させた黒酢で、酸味そのものよりも醸造由来の甘い香りが強い。過油肉ではこれを下味・鍋肌・合わせ調味料と複数回に分けて使い、それぞれ役割が違う。下味の酢は臭み消し、鍋肌の酢は香り出し、合わせ調味料の酢は味の輪郭づけ。一度にまとめて入れると、ただ酸っぱい炒め物になってしまう。
  • 花椒と八角を煮出した「花椒水」で水分を足すのも本場の特徴。花椒粉をそのまま振るのに比べて痺れが前に出ず、香りだけが料理に溶ける。四川料理の花椒の使い方とはっきり方向性が異なる部分。
  • 副材料は地域と季節で入れ替わる。にんにくの芽と木耳が現在もっとも一般的だが、五台山産のきのこ(台蘑)、冬筍、きゅうりを合わせる系統も本場では正統とされている。
  • 唐辛子は使わない。晋菜は「辛くない中華」の代表格で、塩気・うま味・酢の香りの三点で構成する。

代用可能な食材

  • にんにくの芽(蒜薹)→ さやいんげん120g、またはアスパラガス120g。なお蒜薹(にんにくの芽)と蒜苗(葉にんにく)は別の食材で、この料理に使うのは前者。
  • 陳醋 → 日本の黒酢で代用可(風味は異なる。香りが軽いので合わせ調味料の分量を12mlに増やすとバランスが取りやすい)。
  • 生抽 → 濃口醤油で代用可(別物なので風味は変わる。色が濃くなるぶん老抽を3mlに減らす)。
  • 老抽 → 濃口醤油5mlで代用可(別物であり、本来の色の濃さは出ない)。
  • 黄酒 → 日本酒10mlで代用可。
  • 豚ヒレ肉 → 豚ロースの薄切り200g、または豚もも肉200g。
  • 木耳 → 生きくらげ50g(戻す工程は不要)。
  • 花椒・八角 → 五香粉0.5gを合わせ調味料に加える(花椒水を作らない場合は、水100mlをそのまま使う)。

保存・アレンジのコツ

  • とろみをつけた料理なので作り置きには向かない。作った日のうちに食べきるのが前提。どうしても残る場合は冷蔵で翌日まで、温め直すときは水を10ml足してフライパンで炒め直すと、あんが戻る。
  • 下味をつけた肉は、衣をまとわせた状態で冷蔵庫に半日置ける。前日に仕込んでおけば、当日は油通しから10分で仕上がる。
  • 油通し用の300mlが多いと感じる場合は、フライパンに油を100ml入れ、肉を2回に分けて片面20秒ずつ火を通す方法でも代用できる(食感はやや硬くなる)。
  • ご飯に合わせるだけでなく、山西では刀削麺や拉麺の具としても食べる。麺にのせる場合は合わせ調味料の花椒水を120mlに増やし、あんをゆるめにするとよく絡む。

出典

本文は上記の情報源を参考に、独自に再構成・翻訳したものです。