貴州料理・黔菜肠旺面
腸旺麺(肠旺面)レシピ本場貴州・貴陽の配合を徹底解説

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豚の大腸と豚の血。日本人には少しぎょっとする組み合わせだが、貴州省貴陽の人にとって、この二つが並んだ料理名は「これ以上ないほど縁起がいい名前」である。
「腸旺」の「腸」は豚の大腸(肥腸)、「旺」は豚の血を固めた血旺を指す。ではなぜ血を「旺」と呼ぶのか。貴陽の方言では「血」の発音が「削(削られる=損をする)」に通じてしまうため、商売人がこれを嫌い、血を縁起のよい「旺」の字に言い換えたのだという。結果として「腸旺」は「常旺(長年にわたって商売が繁盛する)」と同じ響きになった。食べれば一年中運が上向く麺——貴陽の人が朝から行列を作る理由の半分は、この語呂合わせにある。
誕生は清代の同治年間(1860年代初頭、一説には1864年頃)とされる。科挙に落ち続けた貴陽の秀才が、母親の作ってくれた豚の腸と血旺の麺に着想を得て商いを始めたという伝承が残り、中華民国期には貴陽の蘇德勝がこれを改良して現在の形に近づけたと伝えられている。
貴州料理(黔菜)は、四川の麻辣とも湖南の酸辣とも違う、糍粑辣椒(唐辛子を叩き潰したペースト)と発酵の香りが軸になる系統だ。腸旺麺もその例に漏れず、糍粑辣椒と腐乳から引いた紅油が主役になる。地元では「血嫩(血旺は柔らかく)・麺脆(麺は歯切れよく)・辣香(辛さは香ばしく)・湯鮮(スープはうま味豊か)」、そして「紅而不辣・油而不膩・脆而不生」と評される。カリカリに揚げた豚肉「脆哨」と、卵とかん水で打った鹸水麺が、その食感を支えている。
ここから先は、中国語の複数レシピを比較して割り出した、本場の分量と手順を公開する。
本場式の配合
材料(2人分)
麺・具
大腸の洗浄用
- 小麦粉20g
- 米酢15ml(大さじ1)
大腸の下茹で用(煮汁は捨てる)
脆哨(ツイシャオ)用
紅油用
スープ・仕上げ
作り方
大腸を洗う:豚の大腸150gをボウルに入れ、小麦粉20gと米酢15mlをまぶして5分ほど揉み、ぬめりと臭みを落とす。流水でよくすすぐ。これを2回繰り返す。
大腸を煮る:鍋に水800ml、生姜10g、長ねぎの青い部分20g、八角1個、桂皮3g、小茴香1g、花椒1g、沙姜1g、黄酒15mlを入れて沸かし、大腸を入れて弱火で60〜70分、竹串がすっと通るまで煮る。煮汁は捨て、大腸は粗熱を取って1cm幅の斜め切りにする。
脆哨を作る:豚バラ塊肉150gを1cm角に切り、油を引かないフライパンに入れて中火にかける。脂が出てきたら弱めの中火に落とし、脂を引きながら12〜15分、こんがりきつね色になるまで炒める。香醋10ml・醪糟20ml・生抽5mlを加え、水分が完全に飛んでカリカリになるまでさらに3〜4分炒める。バットに取り出す。
紅油を作る:朝天椒25gはヘタと種を取り、熱湯に15分浸して戻し、水気を絞って包丁で叩き潰す(糍粑辣椒)。鍋にラード60gを溶かし、叩いた唐辛子を弱火で6〜8分炒める。腐乳10gを水30mlで溶きのばして加え、生姜5g・にんにく5gも加えて、さらに3分炒める。油が鮮やかな赤色になったら火を止める。
スープを温める:別鍋に豚骨スープ500mlを入れて沸かし、生抽15ml、塩8gを加えて味を決める。弱火で保温しておく。
血旺を温める:血旺100gは1cm厚さの薄切りにする。5のスープとは別に湯を沸かし、火を止めて80℃程度に落としてから血旺を入れ、2分静かに温める(沸騰させると「す」が入って硬くなる)。
具を湯通しする:麺を茹でる湯を沸かし、緑豆もやし60gと青菜60gを30秒湯通しして引き上げる。続いて2の大腸を1分温める。
麺を茹でる:同じ湯で鶏蛋鹸水麺200gを2〜3分茹でる。歯切れのよさが身上なので、茹ですぎない。しっかり湯切りして器に盛る。
仕上げる:麺の上にもやし・青菜・大腸・血旺を彩りよく載せ、5の熱いスープを器の縁から400ml注ぐ。紅油を大さじ2(約30ml)回しかけ、脆哨と揚げピーナッツ15g、花椒粉1g、小ねぎ10gを散らして完成。
本場と日本の違い
- 日本の中華麺料理は「スープに具を煮込む」発想だが、腸旺麺はすべてのパーツを別々に仕上げて、丼の中で最後に合流させる構成をとる。大腸は香辛料で煮る、血旺は沸騰させない湯で温める、脆哨は揚げ焼きにする、紅油は単独で炒める。この分業こそが「紅而不辣・油而不膩・脆而不生」と言われる仕上がりを生む。
- 貴州の紅油は、四川のラー油と違って糍粑辣椒(戻して叩いた唐辛子)と腐乳から引く。粉唐辛子に熱油を注ぐ方式より辛さが穏やかで、発酵由来のコクと甘みが出るのが特徴。
- 麺は卵とかん水で打った鹸水麺で、貴陽の老舗では「三翻四搭九道切」と呼ばれる折り畳み・切り出しの技法で細く切り出す。日本のラーメン用中華麺(かん水入り)が最も近い。
- 日本の貴州料理店では血旺が省略されることが多いが、本場では血旺なしの腸旺麺は成立しない。名前の半分が消えてしまうためで、貴陽では「旺」の有無が味と縁起の両方を左右する。
参考ページ(写真)
下厨房の「贵阳肠旺面」レシピページに、脆哨・紅油・鹸水麺の手順写真が掲載されています。 https://m.xiachufang.com/recipe/107524009/
代用可能な食材
- 血旺→鴨血のパック品・缶詰(中華食材店やオンラインで入手可)。手に入らない場合は木綿豆腐100gを1cm厚さに切って湯通しし、食感の代役として使う(風味は別物になる)。血旺を省略しても、脆哨と紅油があれば料理としては成立する。
- 豚の大腸→下処理済みの茹でモツ(豚の大腸)を使えば工程2を20分に短縮できる。丸腸(小腸)でも代用可だが、噛み応えは軽くなる。
- 鶏蛋鹸水麺→日本のラーメン用中華生麺(かん水入り・中太ストレート)。うどんやそうめんは食感が合わない。
- 醪糟→米麹の甘酒。甘酒がなければ日本酒15ml+砂糖5gで代用可。
- 沙姜(山奈)→生姜を1g増やして代用可(香りの方向はやや変わる)。
- 腐乳→白味噌8gで代用可(発酵由来の香りは弱くなる)。
- 豚骨スープ→鶏がらスープでも可。市販の顆粒スープの素を使う場合は、その製品の塩分表示を見て、塩8gからその分を差し引く。
保存・アレンジのコツ
- 脆哨と紅油は作り置きが効く。脆哨は完全に冷ましてから密閉容器で冷蔵5日、冷凍1か月。紅油は清潔な瓶に入れて冷蔵で1か月もつ。この二つさえあれば、あとは麺を茹でて具を温めるだけで、平日の朝でも15分で一杯が組み上がる。
- 大腸も煮汁ごと冷蔵で3日、冷凍で1か月保存できる。煮汁に浸したまま保存するとパサつかない。
- 貴陽では同じ具材で汁なしにした「乾溜(干溜)」というスタイルもある。スープを100mlだけにして紅油と生抽を絡めれば、まぜそば風になる。
- 辛さを足したいときは、乾燥唐辛子を乾煎りして粗く挽いた糊辣椒面を2g振ると、貴州らしい焦がし唐辛子の香りが立つ。
出典
本文は上記の情報源を参考に、独自に再構成・翻訳したものです。